摘みたてバジルがくれる一杯の幸せ

貸し農園「シェア畑」で過ごしたある日の午後を思い返すと、肌を焦がすような日差しの中で生い茂るバジルの香りが今でも鼻先をくすぐるように感じる。

かんかん照りの日ばかりなのに、借り主は1週間に一度しか水やりに行かない。自転車に乗って片道10分で行ける距離なのに。そんな過酷な環境下でもバジルは力強く青々と茂り、土の温もりとぬるい風に触れながらすくすくと育っていた。

なんと逞しい。その姿を見ながら、一枚一枚の葉を摘み取る瞬間に小さな自然とのつながりを感じていた。

冬野菜に備えて土づくりをするため、まだ元気なバジルを引っこ抜かなくてはならない日が来た。

苦戦していると、菜園アドバイザーさんが根っこから丁寧に引き抜いてくれる。力強く張った根がその生命力を物語っていた。

今、そのバジルは鉢に移し替えられ、我が家のベランダに置いてある。鉢での栽培に変えてからは毎日水やりをする。窓を開ければ水を与えることができて、収穫もできるバジル。こんなにもバジルが身近にあって、使い放題になる生活は初めて。

あるとき、摘みたてのバジルを使って何をしようかと考え、ふと「生バジルティーを淹れてみよう」と思い立つ。

新鮮なバジルの葉を数枚摘んで洗い、ポットに入れてお湯を注ぎ入れる。湯気とともに、爽やかで芳醇な香りが広がり、心がリフレッシュされる感覚。

バジルの独特な香りには、どこか安心感と落ち着きをもたらす特別な力がある気がする。

マグカップを包み込む左手から感じる温もりと香りから、畑で汗だくになって収穫するシーンや自然の中で感じた空気がよみがえる。

忙しない日や心がささくれ立つ出来事がある日を過ごしていても、私と小さな自然をつなぐこの一杯を味わう時間が、心を整えてくれる。

バジルはただの料理の添え物ではない。それは、私に自然とのつながり、そして自分自身との対話の時間を与えてくれる植物。

自宅のベランダで育つ中くらいの鉢植えが、これからもそんなひとときをもたらしてくれることを願いつつ、今日もまた生バジルティーを淹れる。

Text / 池田園子

▼サラダにも活用▼

ハーブのサラダ