『真剣にふざける 痛快に起業する「革命思考」』を読みました。著者は福岡市に本社を構えるガードナー株式会社の福山克義社長。同社の代表的な製品である「ガードナーベルト」などを通して知られる企業の背景と社長の哲学が凝縮された一冊です。
本書の核となる「真剣にふざける」という考え方は、常識や固定観念に縛られず、自由な発想で挑戦し、純粋な好奇心や探求心を持って仕事に熱中することを指します。この姿勢がいかに重要かが、全3章を通して詳しく語られています。
ガードナーの組織を構成するメンバー一人ひとりが「真剣にふざける」を体現しており、その背景には社長である福山氏の在り方があります。少年のような柔軟な心で、やりたいことに没頭し、メンバーを信頼して任せる姿勢が、組織の活力を生み出しています。福山社長は社員の成長を支援するために、会社として旅や読書への投資を惜しみません。こうして、自発的に動き、自ら仕事を創り出す少数精鋭のチームが生まれています。
(ガードナーの唯一無二ともいえるサポート制度は、初めて知る人にとって驚きの連続だと思います。こんな会社があったのか……と。詳しくは本書や同社のサイト、インタビューなどを読んでほしいところです)
本書で印象に残り、ハイライトを付けた部分をいくつか抜粋していきます。まずは、現代の顧客は自分の価値観に合致し、それを支える使命を持った企業を求めるという部分です。企業の姿勢や理念が、一部の消費者の購買行動に影響を与える時代になっているのは確かだと思います。低価格という要素を優先する層、価格にとらわれないそれらの「別の軸」を優先する層とに分かれていく未来を私自身は想像しています。後者の層を顧客にしたいなら、企業や作り手の「在り方」が大事になります。
中小企業であるガードナーは、大企業とは異なる戦略で「ニッチ市場で勝負する」ことに成功しています。狭い市場であっても、その市場に共感する顧客がいればビジネスは成立するという福山社長の信念が、製品開発やマーケティングに反映されています。護身術用のアタッシュケース、傘など、ニッチな分野に対応した製品もその一例です。
福山社長は、マーケティングを「得意技を持つこと」と定義しています。得意技という言語化は福山社長が50年に渡り取り組んできた空手に由来しています。何をしないか、何に集中するかを明確にし、自分たちの強みに集中することが成功への道のりです。たとえば、ガードナーベルトの広告宣伝は「リアクション動画」に特化することで成果を上げてきました。
ガードナーの商品開発はプロダクトアウトの考えに基づいていて、市場のニーズに依存するのではなく、自社の理念と作り手の視点を大切にしています。自分たちが本当に提供したい価値を見つめ、それを形にすることで、ニッチ市場においても際立った存在感を発揮しています。
本書は「真剣にふざける」というユニークな思考法を軸に、ビジネスや製品・サービス開発に新たな視点を与えてくれます。軽快な語り口で読みやすく、どこから読んでも良くて、何度も読み返したくなる一冊です。モノづくりや組織づくりに携わるすべての人にとって、実践的なヒントが詰まっています。
Text / 池田園子
【関連本】『ビジネス・フォー・パンクス』