「知らない人との会話」がもたらす心の柔軟性

知らない人との一期一会の会話は、アドリブ力の鍛錬や心の柔軟性向上に効果があると思っている。だからこそ、そんな機会は喜んで掴んでいきたいところ。

昨日は、まさにそんな偶然のやりとりが3組の人々との間で生まれたラッキーな日だった。

プロレス考察家であり、著書を数冊持つライターのジャスト日本さんが登壇するトークイベント「味園ファイナルプロレストークバウト」を聴きに出かけた。会場は大阪の歴史ある「味園ビル」。昭和の匂いが色濃く残る建物で、大阪の人なら誰もが知っているような場所だ。今年取り壊されると聞き、少し感慨深かった。

会場はビルの2階にある「ライブシアター なんば白鯨」。辿り着いたものの、開演前にトイレに行っておきたかった。しかし、店内にトイレがなかったら……と想像し、テナント共用のトイレを探すべく、ビル内をさまよっていた。

ここで最初の出会いがあった。エレベーターに乗ろうとしたとき、一緒に乗り込んで私の斜め後ろに立っていたおじいちゃんを振り返り、「このビルのトイレはどこにあるかご存知ですか?」と尋ねた。おじいちゃんはトイレの場所は知らないと言いつつも、用があって近くに来たから味園ビル内を散策しているそうで、「ここは昔キャバレーだったんだよ」と、懐かしい思い出話を笑顔で話してくれた。短い雑談だったが和やかな気持ちになった。

次は2組目の出会い。トイレを済ませて会場へ向かう道すがら、良体格な男性とすれ違った。表情に不安の色が見えたので、思わず「もしかして、プロレスのトークイベントに行こうとされてますか?」と声をかけたところ、やはり迷っていた様子。私は会場の場所を知っていたので、「白鯨はこっちですよ。私も参加者なので一緒に行きましょう!」と先導し、彼の表情がほっとした瞬間を目にして、声をかけてよかったと感じた。

最後の3組目は、帰り道の駅で出会った外国籍のカップルだ。彼らは某駅までの行き方を尋ねてきた。片言の英語と日本語で会話する中、彼らが韓国からの旅行者だということが分かった。短い会話の中には笑顔があって、具体的なルートを伝えることができ、貢献できたという満足感を得た。

これらの出会いを通して、知らない人との会話には大きな意味があると改めて実感する。予想もしない瞬間に始まる会話は、自分の即興力やコミュニケーション能力を試される場となる。「普段あまり使えていない筋肉」を使う感覚だ。

知らない人とのやりとりは、自分自身が心を開き、瞬間的に対応する力を養う貴重な機会でもある。思いがけない学びや発見、さらには自分の人間としての成長を感じる場にもなるように思う。何気ない日に彩りが添えられる機会。こうしたシーンを今後も楽しんでいきたい。

Text / 池田園子

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