人は基本的に他人の話にあまり興味がなく、だからこそ大して聞いていないものです。たとえ集中して聞いているつもりでも「では、今聞いたことを自分の言葉で話してみて」と言われたら、正確に思い出すのは難しいのではないでしょうか。
先日とある勉強会で、隣同士の参加者が1分で自己紹介を行い、続いて相手の紹介(他己紹介)を30秒で発表する場面がありました。しかし、自信を持って発表できた人は少なく、相手の話を正確に覚えていない様子の人の方が目立ちました。
昨年末に参加したセミナーでも同様の光景に出くわしたものです。私自身も相手の話を細部まで上手く再現できなかったことで、話を真の意味で聞くことは難しいのだと実感しました。
ビジネス系の番組でも、プロであるはずのMCがゲストの話を聞けていない場面がありました。ゲストが自己紹介で既に触れていた内容にもかかわらず、MCはその事柄が触れられていないかのように質問をしていたのです。MCという立場からして、ゲストに関心を持って臨んでいるはずですが、それでも話を正確に聞くことができないのが現実です。このエピソードは、人が相手にいくら関心を持っていても、話を完全には聞き取れないという典型例だと感じました。
これらの経験から再認識したのは、人は他人の話を「ふんふん」と聞いているように見えても、実際にはそれほど真剣には聞いておらず、内容をほとんど覚えていないということです。これは自分にも当てはまることであり、周囲の人も例外ではありません。
メラビアンの法則で知られているように、人がコミュニケーションを図る際、相手に影響を与えるのは視覚情報が55%と最も多く、聴覚情報38%、言語情報7%と続きます。そんなことは随分昔に学んだはずなのに、現実社会でそれをすっかり忘れているのです。
話をするとき「相手は話を聞いていない」という前提でいることが大事なのだと思います。それはお互い様です。いろいろな事情があります。集中力が続かない、疲れている、関心がない、ほかに頭を占拠していることがあるなど、人はそれぞれ抱えているものです。だからこそ、伝えるべき内容を短く、的確にまとめ、印象に残る言葉を選ぶこと。たとえ集中が途切れている人すら「ええっ!?」と引き付けられたら凄腕。要点をシンプルに伝えるだけでなく、繰り返しや具体的な数字を使い、記憶に残る工夫も欠かせないのでしょう。
人は他人の話をあまり聞いてない(自分も完璧には聞けていない!)という前提を受け入れた上で、それでもどう伝えるか、どう記憶に残してもらうかを考える姿勢でありたいです。この発想は商品やサービスのキャッチコピーだけでなく、日常の会話でも持っておきたい。いかに強く、今の時代に響く表現を使うか——これこそが、相手の記憶に残る人になるかどうかの分かれ道になるのだと思います。
Text / 池田園子
【関連本】『漫画版 人は見た目が9割』