人は他者に貢献したい。「手伝って」は遠慮なく言えばいい

「助けて」「手伝って」と誰かに頼ることは、相手に貢献感をもたらす点でよいことだと私は思います。今日はそんな話を。

先日、久々に東京を訪れた際のことです。滞在中カフェに入り、イヤフォンをつけて仕事をしていると、隣の席に座っていた高齢の女性が「すみません」と話しかけてきました。隣に誰かが座っているのは気づいていましたが、声をかけられるとは思っていませんでした。

イヤフォンを外し、どうしましたかと聞くと、その女性は少し申し訳なさそうに「これ、直していただけませんか」と言います。いつの間にかショルダーバッグの紐がねじれていて、自分ではうまく直せなくて困っていたそう。

そのバッグの紐はコットン素材で柔らかいものの、ねじれたまま肩にかけるのは不快でしょう。私は「もちろんです。直しましょう」と快く引き受けました。自信満々に応じたものの、紐のねじれ具合はけっこう厄介で、思いのほか奮闘することに。途中、女性に「この部分を押さえていてください」とお願いしたり、「次はこっちからねじってみましょうかね」と試行錯誤したりしながら、紐と格闘すること約10分。

ようやく紐が元通りになった瞬間、私は思わず「やった! 直りましたね!」と拍手をしていました。女性も笑顔を浮かべ、とてもうれしそうにしていました。ふたりで小さな達成感を共有できたひとときでした。

その間、女性は何度も「知らない方にこんなことを頼むなんて厚かましいわね」「本当に申し訳ないわ」と恐縮していました。そのたびに私は「困ったときは誰かに頼ってください」と伝え続けました。

「見ず知らずだから、と気にする必要なんてないんですよ。自分にできないことも、人に頼れば解決できることがたくさんあります」
「頼られることで人はうれしくなりますし、感謝されることで助けた側も喜びを感じるものです」
「急いでいないときなら、多くの人がきっと応じてくれますよ。今回、声をかけてくれたことがうれしかったです」

そう伝えると「そうかしらね。ありがとう。本当に助かりました」と微笑む女性。次の予定に向かう姿を見送り、お別れしました。

10分ほどの出来事でしたが、余韻を残すものでした。助けを求めるのは恥ずかしいことではなく、むしろ困ったときは素直に「助けて」と言える人が増えてほしいと願います。

今回のケースは比較的ささいな困り事ですが、より大きな困難をひとりで抱え込むのはとても辛く、苦しい時間になります。そうなる前に、助けを求めようとするマインドセットを持ってほしい。

この体験から再認識した「頼ることの大切さ」が、この記事を読んでくださる皆さんに伝われば幸いです。もちろん、内容や頼られた側の状況によって応じられるかどうかは変わりますが、人が「自分の力を使って誰かの役に立ちたい」と考えていること自体は、人間の原理原則ですから。

Text / 池田園子

【関連本】『人に頼む技術