人生を豊かにするのは「熱狂できる何か」。

熱中する何かがあると、人は明るく健やかでいられるものだなあと感じる日々です。元気な高齢者と接していると、自分もこの人みたいにシャキシャキありたいなと思います。今日はそんな話を、はじめましての方との会話エピソードとともに書いてみます。

昨日「豊中市立市民ギャラリー」で開催されていた「木目込人形みやびの会 作品展」に立ち寄りました。入口の案内に添えられた赤い猫の人形の写真がかわいいなと目を留めたからです。木目込人形とは何なのかも分からないまま、好奇心のままに足を踏み入れたのでした。

《あとで調べたところ……》
木目込み人形とは、桐の糊で固めたボディに溝を掘り、金襴や友禅などの布をヘラで入れ込んで着せ付ける人形(ヘラで入れ込む=木目込む、というようです)。1740年頃、京都の上賀茂神社の奉納箱を作った職人が残りの材料で人形を作ったのが始まりとされ、約300年の歴史を持つ伝統的な人形だとか。

すると、高齢の女性が迎えてくださり、人形制作やそれによって得られる物事について、あれこれお話を伺う展開に。女性は木目込人形みやびの会の生徒さんで、受付を担当していました。

お話を聞くうちに、人形制作が女性にとってひとつの大切な趣味であるのに加え、人生そのものを凝縮したライフワークのようだと感じました。女性は、人形制作はこれまで学んできた歴史の知識を生かしながらも、より詳しい歴史を調べ、それに基づいて使う素材を選び、立体的な形を作り出すなど、これまで学問や実生活を通じて得てきた多種多様な分野の学びと結びついていると語っていました。

「これまでの人生で培ったあらゆる知見が、人形制作に生かされているんですね」。感心しながらそう言うと、女性は笑顔で大きく頷いていました。

もうすぐ80歳になるという女性が人形制作を始めたのは、還暦を迎えた頃だというので、20年ほど前のこと。親の介護で大変だった時期に偶然、百貨店内の展示会で木目込人形が飾られているのを見て「これが自分のやりたいことだ」と強い衝動を感じたそう。以来、人形制作は女性の生き甲斐となり、今も日々の生活に根付いています。

ひとつの作品が完成するまでに約1年かかり、毎日家事を終えてひと段落ついた13時〜16時の自分が自由に使える時間を人形制作に充てて、少しずつ取り組んでいると教えてくれました。展示会が近づくと、夜中に家族が寝静まったあと、人形の細かな表情を描き入れる、相当な集中力を要する作業に没頭することもあるそう。

彼女のお話を聞きながら「とことん熱狂できる何か」があることが、いかに豊かな生き方につながるのかを改めて実感しました。また、年齢を重ねても学び続け、技術を高めようとする女性の向上心に、深い尊敬の念を抱きました。本心からそれを伝えると、彼女もうれしそうに微笑み「まだまだよ」とおっしゃっていたのが印象的でした。

安易な興味から生じたおしゃべりでしたが、心に残るひとときでした。何気ない出会いから生まれる言葉のやりとりが、生きるヒントや気づきを与えてくれることがある——これからも知らない人との交流を含めたいろいろな会話を楽しんでいきたいです。

Text / 池田園子

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