90代でも若々しい人に学ぶ「“生きる”を楽しむ」姿勢。

今日の話は「かろやかに駆ける90歳」との出会いについて。

高齢者向け事業の準備を進める中で、90歳の女性と出会いました。彼女は若々しい見た目や立ち居振る舞いに加え、動きそのものがかろやかで、一般的な90代女性のイメージを覆す存在です。

しかも、冒頭に書いたように、彼女は走るという動作も苦にしていません。少し前に屋外でうっかり転んだそうですが、わずかな擦り傷で済んだという話を聞き、驚かされました。

亡くなった母方の祖父母を思い返すと、ふたりとも80代後半には骨折やリハビリが必要になるような場面がありました。年齢を重ねると骨が脆くなり、転倒による骨折は珍しくなくなります。それなのに、彼女は骨折とはほぼ無縁の90代。

初めて彼女に会った日、私がバスで帰ろうとしていたところ、「近道があるから」と途中まで一緒に歩いてくださいました。道中、彼女が横断歩道を渡るとき、ごく自然に小走りする姿を目にした瞬間、私の頭は混乱。「今、誰と歩いてるんだっけ?」となりました。

身内に90代前後の高齢者はいましたが、走る姿なんて見たことがなかったからです。祖父母の中で唯一存命の93歳の祖母は元気な方ですが、走るなんてもう何十年もしていないでしょう。彼女の一連のかろやかな動きは、私の速足にすら余裕でついてくるものでした。

この話をパートナーにしたところ、後期高齢者の患者を中心に往診をしている彼は、遺伝子の話に触れながら、驚きつつも感嘆していました。個人差はあるので、誰しもが彼女のような健康を90歳まで保てるとは限りません。でも、彼女のスタンスには、多くの人が取り入れられるヒントが詰まっています。

たとえば、普段の食事では旬の食材を使う。これはよく言われることであり、真新しさはありません。遅寝・短時間睡眠だったり、とくに制限なく食べたりと、一般的に言われる健康的な習慣とは異なるところもありましたが、そんなことよりも大事なのは「“生きる”を楽しむ」ことなのでしょう。

彼女は、笑顔の多い人生を過ごすことを大切にしています。「人に喜んでほしい」という気持ちも旺盛で、それを行動に落とし込んでいて、ブレがありません。だから、年を重ねても年代を問わずたくさんの人が集まってきて、大事にされて、豊かな日々を過ごしています。

人はひとりでは生きていけない生き物。自分自身のことを「好き」な人たちに囲まれる、理想的な人生を送っているのです。

心と身体は密接につながっています。心が豊かであれば、身体にもよい影響が及ぶ。身体を動かすことで、心も前向きになれる。彼女の生活全体から、当たり前でありながら忘れがちな在り方が正であると証明されています。

遺伝子や環境などの違いによる制約を受ける部分はあっても、日々の行動次第でより丈夫な体や明るい心を保つことはできます。彼女のように、命ある限りすこやかに笑っていられるために、今を楽しむこと、「やらない後悔」をしないよう行動し続けることを意識して生きていきたいです。

Text / 池田園子

【関連本】『80歳、まだ走れる