ある日、歩きながらスマホに向かって話していました。友人主催の小さな集まりで、皆の前で話すことになり、その予行演習をするためです。挨拶、自己紹介、参加者への質問投げかけ、本題……当日話すことを口に出し、それを録音しながら帰宅する途中のことでした。
すると、前を歩いていたおばあさんがふと振り返り、「え、何?」と驚いた様子。後ろから声がして、自分に話しかけられていると思ったようです。
私「びっくりさせてごめんなさい。今ひとりで話してました」
おばあさん「ああ、びっくりした。私、そんな機械なんか使えんのよ(笑)」
私「え、そうですか? スマホは使ってませんか?」
おばあさん「(手を振って全否定しながら)うん、持ってないよ」
少し会話をした流れで、ちょうど目の前の信号が変わりました。おばあさんが疲れている様子で、足元もおぼつかない感じがしたので、大丈夫ですかと声をかけてやりとりし、腕を支えながら横断歩道を一緒に渡ることにしました。
横断歩道をゆっくり歩いて渡りながら、「ここ、待ち時間は長いのにすぐ信号変わりますよね」「早すぎる」などとお話。目的地が近くの病院だと知り、そこまで一緒に行きましょうかと申し出ましたが、「本当にありがとう。ここで大丈夫よ」と言われたので、そこでお別れしました。
一連の出来事は偶然の連続でした。自分の練習のためにひとりで話していたら、おばあさんと話す機会が生まれ、さらには横断歩道を無事に渡るお手伝いをするという小さなエピソードへとつながりました。
日頃から“裏目標”として「1日ひとり、知らない人との会話をしたい」と掲げていますが、この日は自然な流れでそれを達成した形になりました。
知らない人との会話は、慣れた相手とは異なる「会話の筋肉」を使うようなものです。それは自分の瞬発的な対応力を鍛えるのにつながると思っています。
Text / 池田園子
【関連本】『超雑談力』