一本のドキュメンタリーが、消費に対する認識を揺さぶりました。Netflixで視聴できる『今すぐ購入: 購買意欲はこうして操られる』はただの告発ではなく、現代社会の構造的な病理を暴く社会批評作品でした。
私たちは「使い捨てシステム」に無意識のうちに組み込まれています。製品の寿命は、企業の利益戦略によって意図的に操作され、消費者は常に「次作」「新作」を追い求めるよう仕向けられています。
たとえば、世界で使用される電気電子機器は毎年250万tずつ増加し、その多くが使用後に電子ごみとして廃棄されています。2019年には世界で5,360万t、1人当たり7.3kgが排出され、それはクルーズ船350隻分に相当する量に。
地域別では、アジアが最も多く2,490万t、次いでアメリカ大陸が1,310万t、欧州が1,200万t、アフリカが290万t、オセアニアが70万tの廃棄量を記録しています。これらのデータは、この問題の尋常ではない規模を如実に物語っているようです。
特に印象的だったのは、企業による「計画的陳腐化」という戦略です。本来10年使用できる製品を半分の期間で故障するよう設計し、消費者に絶え間ない買い替えを求めるわけです。
私が愛用する某世界的ブランドのPCも、10年以上前は4〜5年は使えましたが、近年は2年も経つと不具合が出るようになってきた感じ。1年ごとに出る新作を使えよ、という暗黙のメッセージ。1台14万円くらいするのに。
世界の周縁で起こっている現実も看過できません。私たちが捨てた電子機器類は、発展途上国がその処理を引き受け、そこで深刻な環境汚染と健康被害を引き起こしています。それは、グローバル経済の見えざる暴力のよう。
ですが、このドキュメンタリーは単なる告発に終始しません。修理文化の再興やサーキュラーエコノミーの可能性、消費者の意識変革など、希望の兆しも示唆しています。私たちには選択肢があります。盲目的な消費者ではなく、意識的な選択者でいることもできるのです。
『今すぐ購入: 購買意欲はこうして操られる』は、消費という行為を通じて、私たちが社会をどう形作るのかを問いかけているよう。課題山積の現代社会への批評であり、私たち一人ひとりへの覚醒の呼びかけでもありました。
Text / 池田園子
【関連本】『ごみを出さない気持ちのいい暮らし』