自閉症の画家・石村嘉成さんの個展へ。

神戸で開催中の石村嘉成さんの個展に足を運びました。石村さんは、自閉症のアーティストとして有名な方です。11月に岡山の実家で初めて石村さんの絵に触れ、その鮮やかな表現力に魅了されました。

母から、今年岡山で石村さんの個展があったこと、仲良しの友人が石村さんの大ファンであることを聞かされたのです。動物たちの生き生きとした身体、強い吸引力を感じる目に、その場で心を奪われ「いつか直接見てみたい」と思ったのでした。

数日後、ふと思い立って調べてみたところ、ちょうど神戸で会期中だと知り、神戸なら近いし、12月初旬に行こうと決めて予定を入れていました。11月下旬まであるプロジェクトにリソースを使っていたので「それが終わってからのご褒美」として、自分に楽しみを残していたのです。

その間、事前に石村さんの背景を知りたくて、『自閉症の画家が世界に羽ばたくまで』を読みました。そこには、石村さんが2歳で自閉症と診断され、厳しい療育を受けながら育ったことが綴られていました。療育の先生方やご両親の指導は一貫していて「甘やかさない」「人に好かれる人間に育てる」という強い信念に基づいていました。11歳のときにがんで母親を亡くしながらも、その後は父親と周囲の支えを受けながら、一歩ずつ前に進んでいった石村さんの姿に胸を打たれます。ご両親と石村さんとの関係性についても同様です。

石村さんと美術との邂逅は高校3年生のとき。選択授業で版画を始めたのがきっかけでした。大学進学や就職は叶いませんでしたが、卒業後は創作活動に専念したところ、その才能がすぐに開花し、あれよあれよと多くの人々に認められる存在となりました。

神戸の個展では、2点の新作が発表されていました。この世に存在しない動物を想像して描いた作品は、その成り立ちやストーリーも自筆で書かれていて、石村さんの豊かな創造力に触れることができました。

「全作撮影OK」とのことで、気になった作品たちを撮影

全体を通して特に動物の目の描写には、石村さんの感性と記憶力の深さが表れているように感じられます。石村さんは日々の出来事を日記に記し、それに動物の絵を添えるのを13年近く1日も欠かしていないそうです。「何月何日にどの動物を描いたか」を尋ねられると
、正確に即答できるという驚くべき記憶力を持っている石村さん。

石村さんの色鮮やかな作品からあふれ出る温かみは、愛情深い家庭環境と、それを支えた先生方、周囲から愛されているという影響が大きいのでしょう。「みんなに好かれる子に育てなきゃいかんの。ひとりでは生きていけないから助けてもらえる子に」という教育方針のもとで育まれた人間性が、そのまま絵に表れているようでした。

もしあのとき、実家に帰らなかったら、石村さんのことを知ることもなく、こうして個展を訪れることもなかったでしょう。いくつもの偶然が重なり、特別な体験を得ることができました。縁というものは人生の多くを占めているなと思います。

石村嘉成さんの作品は、その背後にある物語を語りかけてくれるようです。もし機会があれば、ぜひその世界観に触れてみてください。豊かな色彩と温かい感情に包まれる時間が待っています。

Text / 池田園子

【関連本】『自閉症の画家が世界に羽ばたくまで