四十肩になる前にしておきたいこと。

皆さん、腕は上がりますか?
左右5本の指を両肩に付けた状態で、肩を前後にぐるんと回すことはできますか?

若い頃は多くの人ができた動作ではないかと思います。でも、四十肩、五十肩という言葉があるように、歳を重ねるとその当たり前が徐々に難しくなる現象に見舞われる場合も。

関節が動きにくくなり、可動域が狭くなる。周りの40〜50代からも「最近、腕が上がらなくなった」といった話を聞くことがあります。

奥田民生さんの10年ぶり(!)というエッセイ『59-60 奥田民生の 仕事/友達/遊びと金/健康/メンタル』にも、四十肩になって腕が上がらなくなり、釣りをしなくなったという、過去の経験が綴られていました。腕や肩の不自由さは趣味にも大きな影響を及ぼすのです。私ももし腕や肩が動きづらくなったら、趣味の筋トレをしづらくなり、ジムから遠ざかるだろうなと想像しました。

一度腕が上がらなくなると、以前の状態を取り戻すための努力は容易くなく、時間がかかるもの。四十肩や五十肩は、炎症を起こした肩関節の組織が周囲に広がっていくことが原因ともいわれ、加齢に伴い起きやすい現象のよう。

ただ、日常的に腕や肩を動かす習慣があるかどうかで、大きな差が出るのではないかと思います。身体は使わなければ衰え、退化していく。それは生物の原理原則です。

私は腕が上がらない自分にはなりたくありません。キッチンの上の棚からモノを自力で取れるようにしていたいです。身体が強張ったときに思いきり伸びをして上体をリフレッシュする、両手を絡めて空に向かって上げて、身体を左右に傾けて体側を心地よく伸ばす──そんな何気ない動作を、ずっと続けていきたいのです。可動域が広い=収縮の幅が広い=巡りの良さを感じられるというふうに、メリットしかありません。

そのために、私は日常の中で身体をこまめに動かしています。筋トレ時のインターバル中、仕事中に集中力が途切れた瞬間、信号待ちの少しの時間。そうした隙間時間を見つけては、肩を回したり腕を伸ばしたりするようにしています。それは特別な運動ではなく、ただ「動かす」だけ。それだけでも、関節や筋肉を硬直させないための小さな一歩になると信じています。

最近読んだ在宅医師・萬田緑平さんの書籍『穏やかな死に医療はいらない』には、「歩けなくなると人は死に近づく」ということが書かれていました。足腰が弱り、歩く力を失うと、やがて腹筋が衰え、排泄する力さえ失われていく。それが、人間から生きる力を奪っていくのだと。

その文章に触れたとき、腕が上がらなくなる現象に対しても、似たような危機感を覚えました。できていたことができなくなる、身体の自由を失う。それは生物としてのエネルギーを徐々に奪う始まりではないだろうかと。

日常の忙しさの中で、身体のケアを後回しにしてしまう人も少なくないでしょう。でも、今動けるなら、その動ける体を放置して動かなくさせてしまうのは、あまりにももったいないことです。

少しでも多くの人が、自分の身体を最も大切に扱い、意識的かつ積極的に動かす習慣を持てたなら。四十肩を経験することなく加齢していく人も増えるでしょう。そして、だいぶ先になりますが、死の直前まで歩ける人、自由に身体を動かせる人が増えるのではないでしょうか。身体中の関節が痛む、凝り固まるといった悩みを抱える人も減っていくのではないかと思います。

腕を上げること。歩くこと。当たり前に思えるこれらの動作は、動ける身体を維持し続けるのに重要な気がしています。その力を失わないために、今日も私は肩を回し、腕を伸ばし、身体を伸ばし、なるべく歩くようにしています。それは、自分が与えてもらった身体を大切に扱い、長持ちさせるためのささやかな努力です。

Text / 池田園子

【関連本】『穏やかな死に医療はいらない