死を「怖いもの」「恐ろしいもの」と捉えたことがありません。「生きとし生けるもの全員に共通してやってくる、予定を組むことも振り返ることもできないライフイベント」という認識でいます。
今回、死の話から入りましたが、「時間=命」という思いをこれまで以上に強く持ち、だからこそ、いつ生を終えることになろうとも、今を真剣に生きていく決意を改めて固めた。そんな話を残しておきます。
きっかけはオンラインで視聴した「死生観 講演会」です。がん患者を専門に外来診療・訪問診療を行う「緩和ケア萬田診療所」院長を務める萬田緑平先生と、経営者で作家の長谷川エレナ朋美さんが登壇し、それぞれの視点から死生観について語られました。
「最期の瞬間を考える」というテーマは、裏を返すと「どう生きていくかを考えること」ともいえます。
最初にエレナさんが話しました。30歳のとき、10年間連れ添った夫を亡くしたエレナさん。その後も、何匹もの犬を家族として見送り、最近では96歳のおばあさまを自宅で看取る経験をされました。
講演ではその際のエピソードについて詳しく語られました。病院では医療従事者があらゆる手を尽くし、患者の命をできる限り延ばそうとします。エレナさんのおばあさまも、病院でさまざまな管——命を現世につなぎとめるための綱のようなもの——につながれ、治療が施されていました。しかし、その状況では家族と会話をすることも難しく、管を取り外したい様子も見え、ご本人も常々「家に帰りたい」と口にされていたそうです。
そこでエレナさんは、おばあさまの望みを叶えるために、自宅に引き取って看取る選択をしました。そして、その最期は「とても穏やかだった」と語られていました。Instagramやブログなどでも、そのときのことを話されています。
続いては萬田先生のお話です。萬田先生の著書『穏やかな死に医療はいらない』『家で死のう!』などにも書かれているように、ゆっくり・じんわりとした穏やかな死は叶うといいます。
以前、萬田先生の本を読んだとき、人工的な処置(延命)を行わない自然な死というのは、徐々に心身の力が弱くなっていき、たとえるならば炎が小さくなっていく、植物が朽ちていくといったイメージなのかなと想像しました。
これまで2,000人を超える人の看取りを経験されている萬田先生。最期の数日間に家族が感謝の言葉を伝え合ったり、患者自身が望む形で人生を終えたりすることが、いかに価値のあることかが、たくさんの事例とともに語られました。
萬田先生の医療の根底には「患者本人が望むことを尊重する」という考えがあります。だから、望まない延命治療や処置は行わないという方針。もし患者本人が「この薬は飲みたくない」と言えば「わかりました。では飲まなくていいですよ」と答えるそうです。そして、お酒は飲まないほうがいいとされていても、最期が見えてきた患者が飲みたいといえば、それを止めません。
こうした考え方は、従来の医療業界では異端と見られます。というのも、医師のほとんどは「いかに患者を生かし続け、寿命を延ばすか」を最優先事項としているからです。とくに病院(外来)では、それが医師の使命とされているため、萬田先生のように「延命治療をしない医師」は、一般的な医療の枠組みの中では異質な存在と見なされがちです。
延命治療について書かれた本を読むと、死が敬遠され「1日でも長く生きること」が目的と化しているのを感じます。それは果たして本質的なこと? 誰が幸せなの? 本人のwant toが置き去りにされていないか? と私のような医療の素人は疑問に思うのです。
本人が「1秒でも長くこの世にいたい」という欲求を示しているならまだしも、本人にとってのGOAL(理想の生き方をする→理想の最期を迎える)が軽視されたり、無視されたりしているなら、これほどの不幸はないと感じます。
周囲の人が「生きていてほしい」と願うのも、理解できなくはありませんが、それが患者本人の意志に反するものであれば、むしろ苦しみを生むことになってしまいます。「自身の身体のコントロール権」は本来自分にあります。誰もそれを略奪できない。生きている間中ずっとそうだと私は考えています。
本講演を通じて「どう死にたいか」を考えることは「どう生きるか」につながるのだと再確認しました。エレナさんの「明日死にたくはないけれど、もし明日死んだとしても後悔はしないように生きたい」といったニュアンスの言葉にも大いに共感しました。
生と死はつながっていて、それぞれが独立したものではありません。最期を意識し始めたとき「自分がどう死にたいか」を考え、それを実現できる環境を整えることこそが幸福な生き方である——今回の講演を通じてその思いをより強くしたのでした。
Text / 池田園子
【関連本】『穏やかな死に医療はいらない』
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