「顧客にとって何が最善か」を常に考える

「顧客利益を最優先に考える姿勢」について、深く考えるきっかけとなる出来事がありました。

初訪問した美容院でのこと。その日はカット+カラーの予約を入れていました。カラーのカウンセリングを受けた際、私はこうリクエストしました。「側頭部や生え際に目立つ白髪を自然な形でカバーしたい」と。

2024年秋、別の美容院でカラーを入れてもらっていました。髪を染めたのは数年ぶりのこと。そのときの美容師さんには、側頭部の髪をかきあげたときにちらほら出ている白髪を自然にカバーしつつ、洗練された印象になるようにしてほしいとお願いし、すべてお任せしました。

ほとんどの髪は黒いままなので、髪の毛全体を染めたくはなく、あくまで最低限の染色にしてほしいとも希望したところ、プロの美的感覚と経験に基づいて、立体感や光の当たり方を計算しながら、部分的に地毛より少し明るい色が入りました。今もカラーが残っていますが、根本が伸びてきても違和感はなく、自然に溶け込んでいます。

今回伺った美容院でその説明をしたところ、美容師さん(仮にMさんとします)からはこんな提案が返ってきました。

「前回の美容師さんが独自の発想やセンスで施術したカラーに、他の美容師が手を加えると、その美しさが損なわれるかもしれません。できれば、同じ方にお願いしたほうが良いと思います」

Mさんはカラーの施術をすることで得られる売上を手放してまで、私の満足と仕上がりの美しさを優先してくれたのです。

もちろん、その判断にはMさんにとってのメリットもあります。もし私が新たにカラーをお願いし、仕上がりに違和感を覚えた場合、それがクレームになる可能性も。双方にとっての最善の選択として、私が後悔しないための提案をしてくれたのだと思います。

このように、自分の利益よりも「顧客にとって何が最善か」という視点から提案をする姿勢は、自分自身の仕事でも忘れてはいけない大切な考え方だと改めて感じました。

たとえば、私が役員を務める会社や私個人に何か依頼があった際、ご相談内容によっては「それは弊社ではなくB社のほうが適しているのでは?」「仕組みを見直して、既存の取引先様と継続した方がスムーズに進むのでは?」といった視点を持つことも必要。

顧客の真の目的は何か。それを達成するのに必要なリソースは何か。目先の利益にとらわれず、そのニーズに誠実に向き合うことで、結果として信頼関係が生まれ、長い目で見たときにより良い関係が築けるのではないでしょうか。

今回はカットのみの施術でしたが、仕上がりは大満足。シルクキャップをかぶって寝ると、朝にはブロー不要な状態に整っていて、横からチェックしても立体的なシルエットが保たれていました。引っ越しをする都合で再訪は難しいのですが、素晴らしい美容師さんに出会えたと感じています。

この経験は「顧客満足を起点とした提案」がいかに人の心を動かすか、そして自らの仕事においても忘れてはいけない視点として、大きな学びとなりました。

Text / 池田園子

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