約20年ぶりにアルバイトを経験しています。しかも、未経験といってもいい類の製造系です。舞台は商品を何度か購入したことのある近所の老舗和菓子店。勤務時間は早朝6時から8時まで、週に2回からOKで、年齢不問、2ヶ月限定の短期。そんな条件に惹かれてエントリーしたところ、採用していただいて、主に週末にシフトが入っています。
このアルバイトにエントリーした理由は、本業とはまったく異なる世界に触れてみたかったから。日頃PCやモニターと向き合う仕事で、いわゆる形あるモノをつくる「手仕事」とは縁のない人生。和菓子は好きで、消費者として買う機会は多々あれど、つくった経験は皆無。製造の現場を末端でも経験できる、しかも自分がいち利用者である店で。これってなかなかないことでは? そう思い、挑戦してみたのです。
自宅から歩いて5分ほどと、通勤に過度な時間がかからないのも魅力でした。そして、早寝早起き習慣を目指しているので、それが叶うことも。朝5時に起きて朝食をとり、支度を整え、10分前には到着するようにしています。
さて、現在39歳という思いっきり中年の私ですが、和菓子店では新人アルバイト。仕事やそれに至るまでの準備も一から覚える立場で、慣れない業務に緊張感を持って取り組んでいます。文字通り、本当に緊張していて、2時間を終えると肩や背中、腕がガチガチに固まっていて、首周りをコキコキほぐしながら帰宅しています。
自分がこれまでキャリアを積み重ねてきた制作仕事の場では堂々と振る舞えるのですが、この職場ではまったくそうはいきません。スピードと正確さ、ロスを出さない注意深さが求められ、これまでにないほど縮こまっています。話すことも必要最低限。慣れている場とは別人のように過ごしています。池田園子B面。
でも、どんな場所であろうと、明るく面白いキャラクターではじめましての人たちの心を一瞬でつかみ、華麗なほどに馴染むだろうなという人を数人知っていて、そういった天性の人たらし的な才能が1日だけでも欲しいなあ、とは思います。
最近こんなに緊張したことあったか? というくらい、早くも前日から緊張体勢に入っているのか、アルバイト当日の夜中に何度か目が覚めることもあります。「え、まだ1時半?」「あれ、3時かあ。おしっこさすがに我慢できないから行っとこ」「4時か。あと1時間寝れる」みたいな……。全然早寝早起きで健康に、じゃないよ。不健康やん。
しかし、この経験から得られる学びは大きいと感じています。自分の業務に集中しすぎて視野が狭くなっていたこと、もっと気配りをして動けた場面があったことに、自分はいい歳をしてなんて気が利かない奴なんだろうと絶望しながらも、日々気づきを得ています。できるだけ気を配り、周囲の助けに感謝の言葉を伝えたり、自分から「これやりますね」と声をかけたり、手が空いたら残務を探して動いたりしています。メイン業務を終えたあと、大好きな洗い物ができることに喜びを感じています。
7月は繁忙期とのことで、勤務時間が早朝5時から8時の3時間になるため、週に2日、朝4時起きという生活が始まる見込みです。もちろんその分、夜はできるだけ早く寝るように。緊張して夜中に目覚めるので、早めに寝たほうがいいに決まっています。勤務後に帰宅しても8時過ぎ。本業にはまったく支障がなく、朝から元気に挨拶をしたり、一仕事終えたりした達成感があったりで、1日が長くなったような実感があります。
朝5時台に外を歩くというのも、なかなか気持ちのよい時間です。北野天満宮の緑に癒されているというのもありますが、空気は澄み、気温もまだ低く、清々しくて。そんな静かな朝に、手仕事を黙々と繰り返すというのも◎。
慣れない仕事に身を置くことは、自分を見つめ直すいい機会です。自分の肩書きや仕事歴とは関係なく、一作業者として動くことの意味。2ヶ月という限られた期間ですが、この経験を通じて得る感情や思考、発見などのすべては、私にとって必要なモノだと思っています。
Text / 池田園子
【関連本】『働くということ 「能力主義」を超えて』
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