消えてない承認欲求を認め、休憩する。

IT企業を退社して「書く」に関わる仕事を始めた2012年から、自分の名前や活動の証を形あるモノ(具体で言うと書籍)として残したい、という思いを抱えて生きてきました。同年、独立したての頃にいただいた商業出版のオファーに飛びついたのも、その欲求を優先するあまりでした。「承認欲求を満たす」という目先のことだけ考えていた25歳の若造は迷いませんでした。

「池田園子 本」で検索すると出てきますが、その本は「フリーランスとして生きていくには」という内容です。独立1年目の平凡なライターが手ぇ出しちゃいけんテーマじゃろと、今では冷静に判断できるお題であります。

当時、恩師のような存在だった編集者には反対されましたが、「自分の本を出せるチャンスだから」と押し切って出版しました。結果的には、その方の予想通り売れず、「売れない本を出した著者=その後、余程ブレイクする見込みがない限り、商業出版のチャンスはない人」というデータだけが残ったのでした。

しかし、運と縁とタイミングが重なって、2016年には『はたらく人の結婚しない生き方』(クロスメディア・パブリッシング)を出しました。前作よりはマシだと思いますが、こちらも多くの人にはリーチしなかったです。

けれど、それでもなお「本にして残したい」という執心は手放せませんでした。商業出版という形が難しくなってからは、Kindleやペーパーバックというスタイルで、版元と関わらずに自ら本を制作する方法をとりました。

ヘアレスキャットと暮らしたい スフィンクスとバンビーノがわかる本』という、ニッチな猫がテーマです。実売数や閲覧数は決して多くはありません。

それでも、自分ひとりという最小チームで、監修者や協力者など多様な人たちを巻き込みながら、形にしてわずかでも売れたというのは大きな経験値になり、商業出版のとき以上に楽しかったのを覚えています。

自分の名を知らしめたいという承認欲求ではなく、「ヘアレスキャットを網羅的にまとめた書籍がないからつくりたい」「この特殊猫の魅力を知ってほしい」という欲求が大きかったからこそ、勢いを持って進められたような気がします。

最近は、1ヶ月ほど前から「できる限り買わない暮らし」「今あるモノに感謝して生きる」といったテーマで、Kindleやペーパーバックなどにする目的で、少しずつ書き溜めています。

ただ、手が止まるのです。短いテキストを毎日1本は書こうと決めていても、達成できない。そのとき、ふと考えました。こんなにも「活動の軌跡を形にすること」にこだわる背景には何があるんだろうと。

深く潜ってみると、純粋な表現欲求のその奥に、注目されたい、話題になりたい、一花咲かせたいといった欲望が、未だに根を張っていました。表向きは「ただ、表現したい」としながらも、表現物を目立つ・浮き上がるためのツールとして利用しようとしている自分がいることに気づいたのです。そういう邪な欲の割合が高いから、今、本が書けない、進まないんだとも思い至りました。

私はこのWebメディアを通じて、毎日発信を続けています。この活動は「表現したい」「自分が楽しいからやる」といったスタンスで続けているから、書けない、更新が止まる、ということもないわけです。

不純な動機が多いまま、本をつくるのはストップしました。身体が止まる=心もそのモードではない、ということ。自己中心的な承認欲求が消えてから、本当に書きたいものを自分のために書くことにしました。

今は代わりに、仕事や家族を含めた日常で関わる人たちとの関係のなかで、自分の振る舞いの一部が、誰かの心に記憶や思い出として存在すればいい、と考えています。

形あるモノではなく、向き合うことで生まれる感情や想いが、誰かの心に残ることもあれば、残らない場合もある。静かに生きていこう、と今は思っています。

Text / 池田園子

【関連本】『静かな働き方

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