5月に初めて下村敦史さんの小説『同姓同名』を手に取ってから、下村さんのミステリ作品にのめり込む日々が2ヶ月ほど続きました。ふと「ほかの作家の作品も読みたいモード」になり、思い浮かんだのが村山由佳さんでした。ミステリばかり連続的に読みすぎて、だいぶ違う方向性の作品を自然と欲したのかもしれません。
村山さんの作品は、10代の頃に『天使の卵』を読んで以来、人生のあちこちで手に取ってきました。例えば、2009年に刊行されてベストセラーとなり、のちにドラマ化もされた『ダブル・ファンタジー』。
Amazonの購入履歴を見ると、文庫化された2011年に購入していました。性愛を貪欲に追求していく女性脚本家の主人公の姿を追いながら、当時24〜25歳だった私はこれを女盛りと言わずになんと言うだろう、そして、こんなふうに自ら主体的に快楽に身を委ねる激しい恋愛や生き方をしたい、と渇望したのを覚えています。この読書体験はその後の恋愛関連に大きな影響を及ぼしました。
同時に村山さんが描く官能の世界を美しいと感じ、その後も恋愛関係で行き詰まったタイミングに、『アダルト・エデュケーション』(2010)『花酔ひ』(2012)『ミルク・アンド・ハニー』(2018)などの作品を読んできました。
今回、久しぶりに手に取った村山作品は『ラヴィアンローズ』(2016)。行きつけの市立図書館で、村山さん単行本コーナーに行くと5冊ほど並んでいたなかで、装丁に惹かれて手に取りました。約10年前にこんな作品が出ていたとは知らなかった。図書館だからこその出会いです。

主人公はフラワーアレンジメント教室の講師で、カリスマ主婦として人気の咲季子。夫との間に子どもはいません。夫は典型的なモラハラ気質で、ふたりの小さな世界のなかで、咲季子を支配し続けていました。夫は咲季子のすべてに口を出し、時にプロデュースめいたこともして、「お前はひとりでは何もできない」「誰のおかげでうまくいってると思ってんだ」が口癖で(これには「ろくでもねえ奴だな💢お前は何様なんだと言ってやりたい」という感想しかありません)、吝嗇家で、はっきり言って長所が見当たりません。
そんな折に登場するのが、デザイナーの堂本という魅力的な男性。品がありながら、野生味もあって、人を惹きつける容姿を持っている。そういう人、いますよね。咲季子は堂本のことが気になっていましたが、ある日、堂本が強引に接触してきたことから、秘密の関係が始まります。
自分が性的魅力を感じる相手に限り、また、自分の心身が傷つかない類のアプローチに限り、相手の押しの強さを受け入れる女心も理解できます。咲季子は彼にますます心を奪われていきますが、読み進めるうちに堂本という男の軽薄さ、底の浅さも見えてきます。「いい男」なの、仕事と見た目だけやん……と勝手にがっかり。
そして、物語は予想もしない方向へ進みます。偶発的に夫を殺してしまい、庭の薔薇園に埋めるという衝撃の展開。咲季子的には「いなくなっても喪失感はない夫」ではあるが、殺人を犯してもなお、堂本との関係を守ることが正解だったのか、堂本にそこまでの価値はあったのか、という葛藤があったようです。この心の揺らぎに深く共感しました。
村山さんの作品は、恋愛や性愛の側面だけではなく、女性の生き方や心の深淵を丁寧に描いていて、久しぶりに読むとやっぱり素晴らしいなと心踊りました。そして今回は、殺人という要素も絡む内容だったことで「これまでにない村山作品を読めた」と新たな感動に包まれ、その余韻も長く続きました。
この勢いで、最新作の『PRIZE』(2025)を購入。直木賞をとりたい作家と編集者との物語です。デビューから10年以上経った2003年に『星々の舟』で直木賞を受賞した村山さんだからこそ、直木賞の裏側もお知りになっている。先日は2025年度上半期の「直木賞・芥川賞該当作なし」との報道に対し、関係者の沈痛な心情を想像し、率直な感想をポストされていたのも記憶に久しいです。
Kindle端末を持ち歩いて、時間さえあれば開いていたところ、購入から2日で70%以上読み進めていました。この文章を書いていて、まだ読んでいない・読んだかもしれないが昔すぎて内容を忘れている村山作品も手に取っていきたいところ。次は阿部定を描いた『二人キリ』を読むと決めています。
Text / 池田園子
【関連本】『PRIZE』
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