2月は、言葉の当たり月だった。
これすごい! と一瞬で心を持っていかれる言葉にいくつも出会って、そのたびにノートを開いて書き留めていた。あとから見返してみると、内容というより「言葉そのもの」に心が動いているのがわかる。
たとえば、「柑橘の大トロ」。
スーパーのポップで見かけた、高級みかん「せとか」の説明だった。
これ、すごくないですか。
その場で「うわ、強い」と思って、忘れないうちにスマホに音声でメモした。
「〇〇の大トロ」って、抗えない。
そのジャンルの中での最上級、別格、非日常――そういうニュアンスを、一瞬で伝えてしまう。
じゃあこれ、置き換えられるのかと考えてみた。
「〇〇のウナギ」はどうだろう。違う。
「〇〇のシャトーブリアン」は? 少しよそ行きすぎる。
考えれば考えるほど、「大トロ」という言葉の特異さに気づく。
ああ、これ、代替が効かない言葉なんだなと、ちょっと感動した。
言葉は、ラベルじゃない。
そこに含まれている空気ごと運んでくるものなんだと思う。
もうひとつ、心を持っていかれたのが「令和の光源氏」。
これは、与沢翼さんの婚活投稿へのコメント欄で見かけた言葉だった。
その一言だけで、状況もキャラクターも、すっと立ち上がる。
すごいのは、「令和の」という時代性と、「光源氏」という象徴性の掛け合わせ。
このフォーマット、応用が効くなと気づいた瞬間、ちょっと興奮した。
「〇〇の光源氏」。
時代を変えてもいいし、場所を変えてもいい。
でも、「光源氏」は残したい。この絶妙なバランス。
言葉の組み合わせって、こんなにも自由で、こんなにも設計できるものなんだと、改めて思う。
そして、極めつけは「悪魔合体」。
仕事上のやりとりのなかで見かけた言葉だった。
いくつかのトラブルが重なってしまった、という文脈で使われていたんだけど、内容を一瞬で伝えるインパクト。
いや、パンチ強すぎでしょ、と思わず笑ってしまった。
ごめん、状況はきっと大変だったはずなのに、それでも「悪魔合体」はちょっとすごい。思わずメモしてしまった。

こういう言葉って、気を抜くとすぐ流れていく。
特に私は、記憶力がいいほうではないから、なおさら。
だから、見つけたらすぐメモする。
そして、「なんでこれ面白いんだろう」と考えてみる。
別の言葉なら? と書きながら、うんうんと。
この「考える時間」がいい。
言葉の構造を分解してみたり、置き換えを試してみたり。
その過程で、「あ、ここが効いてるんだ」と気づく瞬間がある。
AIに壁打ち相手になってもらうこともある。
それがちょっとしたトレーニングにもなるし、単純に楽しい。
私はその場で面白いことを言うのが得意じゃない。
特に、初対面の人を前にして、ぱっと笑いを取る、みたいなことは難しい。
でも、だからこそ思う。
面白さって、才能だけじゃなくて、観察と蓄積でも作れるんじゃないかと。
いい言葉に出会ったら、拾っておく。
なぜ面白いのか、考えてみる。
自分なりに組み替えてみる。
それを繰り返していくうちに、いつかどこかで使えるかもしれない。
そして何より、その過程自体が、けっこう豊かだ。
無料でできる、このひとり遊びに満たされている。
言葉って、おもしろい。
考えるって、楽しい。
だから、流れていく前に、ぜひメモしてほしいです。
もしかしたらその一言が、いつか誰かをくすっとさせたり、自分を助けたりするかもしれないから。
Text / 池田園子
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