気に入っている服がある。
春用の羽織りもの。スプリングコートやトレンチコートではない。もっと軽くて、もっと気楽で、アクティブ寄りな生活にすっと溶け込む服だ。
これまで、春や秋に着るコートは何度か買ってきた。でも、どれも出番は少なかった。理由は単純で、その季節が思っているよりずっと短いからだ。加えて、私は暑がりでもある。だからちょうどいい季節に着るはずのアウターは、手に取る機会が少なくなってしまう。
結果として、この数年、春秋専用のアウターは持っていなかった。厚めのトップスでやり過ごす。少し寒い日があっても、それで十分だと思っていた。
そんな私が、2025年2月頃、羽織りものを買った。なぜそのとき買おうと思ったのか、正直よく覚えていない。京都に引っ越す前だったから、無計画に物を増やしたとは考えにくい。そのときの自分には、必要だと判断できる理由があったのだろう。
場所は、レトロスポットとして知られていたダイエー曽根店(2025年7月末閉店)。大人になってから、ダイエーで服を買った記憶はほとんどない。食料品や日用品のついでに立ち寄った売り場で、それに出会った。

白地で、水を弾くような質感。ポリエステルとナイロンの軽い素材に、金色のファスナー。どこか上品だ。
そして、いちばんの決め手はポケットだった。
左右に大きなポケットがついている。ハードカバーの本が難なく入るほどのサイズで、手のひらを広げたままでもすっと収まる。大きな余白が、とてもいい。
フードもついている。首まわりに自然なニュアンスが出るのに、パーカーのような重たさはない。軽い素材だからこそ成立しているバランスだと思う。
この服の良さは、着てみて初めてわかる。
ポケットが、とにかく便利なのだ。財布はもちろん、歯磨きセットまで入る。バッグを持たずに出かけられる。手ぶら歩き・ノーバッグ自転車移動は、一度経験するとやみつきになる。片道1時間くらい歩く日でも、肩まわりが軽くて負担がない。
そして、白という色。これも大事。夜、自転車に乗るとき、白い服はよく目立つ。黒を選びがちな中で、この白は小さな安心をくれる。歩いているときも同じだ。
京都の春の夜は、思っているより冷える。風がある日はなおさらで、4月下旬でも、この一枚に守られている、と感じることがある。
思えば、年齢とともに身体の感覚は変わってきている。昔はいらなかったものが、今は必要になっている。このアウターも、そのひとつ。服の選び方は、季節だけでなく、自分の変化にも左右される。
この服は、3,000円くらいだったと思う。でも、それ以上の働きをしてくれている。値段よりも、自分の生活にすっと馴染んでいることのほうが大きい。
実はこれ、すぐには買わなかった。一度見てやめて、また見に行って、さらにもう一度。超慎重。引っ越し前だったこともあり、「これ以上物を増やしていいのか」と迷っていたからだ。それでも、何度か足を運んで、ようやく決めた。
そして今、思う。あのとき、買ってよかったと。
服はたくさんいらない。でも、自分の生活をより良くしてくれるものは、確かに存在する。この羽織りものは、そのひとつだ。
Text / 池田園子
【関連本】『大人になったら、着たい服』
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