ものを買うとき、ずいぶん慎重になりました。
本当に必要か。今あるものを使えないか。これは欲望なのか、暮らしを良くしてくれるものなのか。いちいち、そんなことを考えるようになった私ですが、靴下だけは、少し自分を甘やかしてしまいます。
先日、百均でかわいい靴下を見つけて、買ってしまいました。足首の側面に、立体的なワンコがちょこんとついている靴下です。布の上に、犬がいる。控えめだけど、存在感がある。

大人が、足首に立体的なワンコを連れて歩いている。Taroに「見て〜」と見せたら「なにこれ、かわいい〜」と喜んでいました。
いろいろ面白い。でも、そこがいいのです。
靴下というのは、私にとって「自分だけの楽しみ」に近いものです。外で靴を脱ぐ機会なんて、そうそうありません。しかも私はたいてい黒いパンツを履いているので、足首の側面にいるワンコが誰かの目に触れることは、まずない。
つまりこれは、秘密のしるしです。
誰かに見せるためではなく、自分だけが知っている小さな遊び心。今日の私は、黒いパンツの下にワンコを連れている。そう思うだけで、ニコニコしてしまう。
横に猫がついた靴下。好きな青色の靴下。ちょっと面白くて、かわいい靴下。そういうものを、誰に見せるでもなく身につける。外側の私はいつも通りでも、内側に小さなハッピーを忍ばせておく。
それは、慎重に暮らすことと矛盾しない気がします。
もちろん、むやみに増やすつもりはありません。今回は、そろそろ穴の空きそうな古い靴下があって、その入れ替えとして買ったのでした。手放して、迎える。そういう意味では、これは浪費ではなく更新なのかなあと。
ただ、その更新に、ちょっとだけ遊び心を混ぜる。それくらいの余白は、暮らしにあっていい。
このワンコの靴下を見つけたとき、もうひとり思い浮かべた人がいました。以前、靴下をプレゼントしたら、とても喜んでくれた女の子です。
その子のお母さんから、こんな話を聞いたことがあります。
「池田さんにもらった靴下を履いていくと、いいことが起きるみたいなんです」
これまでにも何度か、そういうことがあったらしい。だから、穴が開いても、その子は私の贈った靴下を履き続けているのだそう。
なんてかわいい話だろうと思いました。
その靴下に縁起のパワーがあるのかはわかりません。でも、彼女が「この靴下を履くといいことがある」と思ってくれているなら、それはいいこと。
人は、自分を元気にしてくれるものを持っているだけで、いつもより前を向けることがあります。お気に入りのハンカチ。大事な人にもらったペン。勝負の日につけるアクセサリー。誰かにとっての靴下も、きっとそういうものになり得る。
だから私は、またその子に靴下を贈ります。
今度も、何かいいことが起きますように。いや、いいことが起きると思って、少し楽しい気持ちで出かけられますように。
そう願いながら、もう一足、かわいい靴下を買い足しました。
買うものには、慎重でいたい。でも、暮らしから遊び心までは、なくしたくない。
誰にも見えない足首の側面に、立体的なワンコがいる。それだけで、今日という日が少しだけ愉快になる。
大人になるとは、かわいいものを卒業することではなく、誰に見せなくても自分がうれしくなるものを、主体的に選べるようになることなのかもしれません。
Text / 池田園子
【関連本】『ギフトエコノミー ―買わない暮らしのつくり方―』
「SAVOR LIFE」では、生活をより豊かにするためのアイデアや情報を発信しています。会員様限定のお知らせや限定コンテンツをニュースレターでお届けします。ご登録ください!


