苦手なことほど「実験」にしてみる

私は、大勢の人の前で話すことが得意ではありません。特に、知らない人が多い「アウェイ」の場で話すことには、明確に苦手意識があります。

なぜ苦手なのか、自分なりに分析したことがあります。新卒で入った会社を辞め、転職も経験しましたが、会社員としてのキャリアは気づけば3年に届かないまま、フリーランスになりました。編集長という肩書きを経験したこともありますが、チームはごく小さく、大勢の前で語る機会はほとんどありませんでした。その後、小さな会社の役員になったタイミングでコロナ禍が来て、対面の場がなくなり、プレゼンはすべて画面越しに。言い訳にするつもりはないけれど、振り返ると、私のキャリアには「大勢の前に立って話す」という経験が、ほぼ丸ごと抜け落ちていたのです。40歳になった今もそれが苦手なままというのは、正直、悔しい。

だからこそ、練習していこうと決めました。昨年『話し方の戦略』を買い、月に一回開かれている地域のイベント「上京朝カフェ」に参加するようになりました。

一回目は、一応何を話すか考えてから臨みましたが、本の内容を意識して実践するところまでは至りませんでした。先日の二回目で、初めて本格的に試してみたのです。

本で学んだことをもとに、「コアメッセージは何か」「何のために話すのか」「誰に届けるのか」「何を覚えて帰ってもらいたいのか」などを考え、一分半以内に収まるように話を組み立て、何度も練習しました。

やってみてわかったのは、準備するとしないとでは、まったく違うということです。話の骨格が自分の中にあるだけで、頭が真っ白になることを防げる。上手に話せたかどうかは別として、「何を伝えに来たのか」を見失わずにいられました。

本番はやはり独特です。多くの人は無表情で、反応は少ない。笑顔で話したいのに、自分の顔もこわばっているのがわかる。話しながら、興味を持ってもらえているかな、テーマ選び失敗したかな、と小さな考えが次々と頭をよぎります。そんな中で、片手で数えられるくらいのうなずいてくれる人の存在が、どれだけ支えになることか。その人たちの顔を見つけながら、なんとか話し続けられる。そういう状況で話し続ける感覚に慣れることも、練習のうち。

人前で話す緊張は、一人では再現できません。上京朝カフェに参加しているのは、地域につながりをつくりたい、どんな人がいるのか知りたい、というのが一番の理由です。ただその場には、一人ひとりが2〜3分話す時間がある。だから私は、その機会もありがたく実験に使わせてもらいます。次はどんな導入にしようか。どこで笑いを入れられるか。どの言葉が相手に残るか。小さく試していく場所にするのです。

苦手なことはいろいろありますが、すべて克服しなければ、とは考えていません。ただ、大勢の前でリラックスして、笑顔で、自分が楽しみながら話せるようになること、これはできるようになったら楽しいだろうなと確信しています。だから実験。うまくいかなくても、「次はどうすれば良くなるか」を考える材料になる。そういうマインドでいると、苦手なことと向き合うのが楽しくなってきます。

人はいくつからでも変わっていけます。ただ、それは自然に変わるということではありません。こうなりたいというゴールがあって、そのために思考や言葉や行動を変えていこうとする、その意思があってこそ。苦手なことは、突然得意にはならないし、魔法はない。でも、準備して、練習して、自ら機会を取りに行って、月に一回でも挑戦し続けることはできる。その積み重ねの先に、「前よりは成長したかも」と自信をつけた自分が、少しずつ育っていくのだと思います。

Text / 池田園子

【関連本】『話し方の戦略

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