京都市北区に、ユニークなシェアオフィスがある。
自らを「おばあちゃん家系共同オフィス」と説明するアソボロジーオフィス。一般社団法人アソボロジーが運営する共同オフィスだ。最寄りは京都市営地下鉄の北大路駅。京都駅から13分ほどで着くので、アクセスもいい。
ただ、この場所の魅力は、「便利なシェアオフィス」というところには収まらない。まず、建物がいい。

1週間くらい前、のれんがついた
アソボロジーオフィスは、築100年以上の古い京都の家屋を活用している。いわゆる新築のピカピカしたオフィスではない。伝統的な建物が持つ空気、少し暗がりのある落ち着き、木の建具。そういうものを残しながら、現代の働く場所として使えるように整えられている。

1F
空間は2階建てになっている。1階はデスクのある、一般的なオフィス空間。一方、2階は和室。ちゃぶ台にスクリーンと、イベントや会議にも使える。座って話を聞くこともできるし、少し疲れたときには畳の上で身体をゆるめることも可能。

2F。おばあちゃん家感たっぷりで落ち着く
「働く」と「集まる」と「休む」が、同じ建物の中に無理なく入っている感じがいい。そのゆるさが、京都の古い家屋とよく合っている。
シェアハウスも併設されている。住む場所と働く場所が、同じ敷地の中でゆるやかにつながっている。シェアハウスに住む人は、オフィススペースの利用料や電気代、インターネット代なども含めて月額6万5,000円ほどで暮らせるそうだ。
これは、かなり面白い。
京都で暮らしながら、同じ場所で仕事もできる(北大路はときどき行くのだけど、とてもいいところだと私は知っている。周囲に必要なお店は揃うし、鴨川にも行きやすい。そして交通面でも便利。もし京都市内で引っ越すなら住んでみたいエリアのひとつ)。しかも、光熱費やインターネット代も含まれている。大きな資本でつくられた都市型のシェアオフィスとは違う、京都のこの場所だから成立している価格感と距離感がある。
オフィス利用も、個人なら社会人賛助会員で月額1万円、学生賛助会員なら月額5000円(「デシ割」適用で月額1000円)と、入り口がいくつも用意されている。24時間365日使える共同オフィスとしては、とてもリーズナブルだと思う。仕事場を持ちたいけれど、大げさなオフィスを借りるほどではない人。自宅以外に作業できる場所がほしい人。京都で何かを始めたい人。そういう人にとって、ちょうどいい選択肢になる。
ただ、アソボロジーオフィスの本当の面白さは、建物や料金だけではない。そこに集まる人たちが面白い。
シェアオフィスというと、起業家やビジネスパーソンばかりが集まる場所を想像する人もいるかもしれない。もちろん、仕事をする人たちはいる。でも、ここはそれだけではない。企業に勤める人から起業家、各種クリエイター、広告制作関係、サードセクター、公務員、大学関係者、アーティスト、ローカルプレーヤー、近所の子どもたちまで、いろいろな文脈を持つ人が出入りしている。
ビジネス一色ではない。かといって、趣味の場でもない。仕事、表現、学び、地域、暮らし。そういうものが、ひとつの場所にゆるやかに混ざっている。
その空気をつくっている一人が、アソボロジーのコモン(Common)を務める伊藤圭之さんだ。伊藤さんが使う「コモン」という言葉には、「顧問」のように上の立場から助言する関わり方ではなく、みんなが必要なときに気軽に頼れる存在でありたい、という感覚が込められている。
伊藤さんは京都市役所の職員として関係人口増加と文化資本政策を担当しながら、一般社団法人アソボロジーのコモンとして場をひらき、運営に関わり、大学講師としてキャリア開発の講義も持っている。ほかにも、多様な活動をしている人だ(アソボロジーオフィスへ行くと、その幅の広さを感じられる)。伊藤さんと話したとき、自身のことを「受信機」と表現されていて、巧い喩えだと思った。

玄関すぐのコーナー。伊藤さんの活動の一種がここに
誰かの「面白い」や、社会の中にある小さな困りごとが、伊藤さんの周りには自然と集まってくるそうだ。伊藤さんはそれを受け取って、自分の中で一度咀嚼し、企画や場やサービスのような形で社会に返していく。伊藤さんの好きな人たちとコラボレーションしながら、はたらくというよりも、あそぶように仕事をつくっている。なんて理想的なはたらき方なんだろう。伊藤さんが過去から現在までに、アウトプットに関わってきたモノ・コトを見ると、受信機と発信機双方の役目を持った人のように見える。
面白い人の周りには、面白い人が集まる。
これは本当にそうだと思う。アソボロジーオフィスも、伊藤さんの友人や、その友人、伊藤さんが出会った人たちが、ある程度伊藤さんのフィルターを通って入ってきている場所なのだろう。だから、単なる不特定多数の集まりではない。ゆるやかだけど、どこか安心感がある。
伊藤さんと出会ったのは「月光観測所」という内省の場所だった(こちらを運営する田貝雅和さん・三川夏代さんも伊藤さんの友人で、確かにユニークな方々だ)。そこで伊藤さんの講話を聞いて、とても面白い人だなと思った。その後、Facebookでつながり、時々SNS上でやりとりをするようになった。そんな流れの中で、アソボロジーオフィスを見学しに行ったり、そこで「面白い人がいますよ」と引き合わせてもらったりした。
私にとってアソボロジーオフィスは、いきなり会員になる場所というよりも、人とのつながりの中で少しずつ近づいていった場所だった。そこがいいなと思う。
いま、働く場所はいろいろある。コワーキングスペースも、シェアオフィスも、レンタルオフィスも、探せば見つかる。きれいで、便利で、設備が整っている場所も多い。
でも、場所の魅力は、設備だけでは決まらない。
どんな人がそこにいるのか。どんな会話が生まれるのか。そこにいると、自分の中のどんな部分が動き出すのか。むしろ、そういう目に見えにくいもの、手触りを味わえるもののほうが、独特な価値があると思う。
アソボロジーオフィスには、そういう、そこにしかない豊かさがある。

アソボロジーオフィスのイメージをつくってみた
アソボロジーオフィスは、これまでもこれからも、企業人や起業家だけではなく、近所の人にも、子どもたちにも集まってほしいと考えているという。いろいろな属性の人たちが出会い、話し、交流できる場所になればいい。そのコンセプトは「遊び」と「学び」。いち仕事場所ではなく、分野を越えて交わる、創造的な交流が生まれる場所を目指している。
その考え方も、とてもいい。
シェアオフィスでありながら、地域の縁側のようでもある。仕事場でありながら、誰かの居場所でもある。イベントスペースでありながら、ふらっと人が集まる余白もある。月に一度、第三土曜日にはオープンオフィスの日もあり、会員でなくても自由に見学できる。
私の家からは、歩いて2.5kmほど。今は、日常的に使っているわけでもない。でも、いい場所だなと思う。こういう場所が近くにあること自体がうれしい。だから、シェアオフィスに興味があるという友人には必ず情報提供をしている。
アソボロジーオフィスは、シェアオフィスという枠組みを超えた場所。人に対しては、便宜上、シェアオフィスというくくりで紹介するけれど。
築100年以上の家屋に、現代の働き方が入り込む。シェアオフィスの隣に、暮らしの場がある。仕事をする人の横に、アーティストや研究者や地域の人がいる。大人だけでなく、子どもたちも来られる場所を目指している。
それは、町の中に置かれた小さな実験場のようだ。
働く場所を探している人にも、面白い人と出会いたい人にも、京都で何かを始めたい人にも、そしてただ「なんだか気になる」と思った人にも、一度覗いてみてほしい。
アソボロジーオフィスは、仕事場という言葉だけでは説明しきれない。人が集まり、考え、話し、何かを始める、循環の場所。
※記事内容は掲載当時(2026年6月22日)のものです。最新の情報は公式サイトをご確認ください。
Text / 池田園子
写真提供 / アソボロジーオフィス
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