蓄積したものを、整理して並べ直し、別の文脈に置いてみる。それにより、新しい価値が生まれる。
アンジー森さん(株式会社アンジー 代表取締役 森英信さん)の本を読んで、まず感じたのはそのことだった。
森さんは、英語フレーズに関する本、AIを活用したコンテンツ制作に関する本、小説も書かれている。現在出版されている3冊の中で、私が特に感銘を受けたのは、英語に関する一冊『Tech Leader’s English Come Full Circle Vol.1』だった。

森さんは2021年から、年間50件ほど英語でインタビューをする仕事をしている。海外のTech系企業・スタートアップの創業者、経営層に英語で話を聞き、その内容を日本語の記事としてまとめる仕事。英語でインタビューができること、そしてその内容を日本語の読み物として成立させられること。その両方が必要なこの仕事ができる人は、かなり限られていると思う。私の会社でも、そうした案件が来たときには森さんに頼らせてもらっている。
今回読んだ本は、森さんがこれまでインタビューしてきたTech Leaderたちの言葉の中から選び抜かれたフレーズが30個まとめられたものだ。このコンテンツの一部はnoteにも掲載されている。
本はとてもリッチな構成だ。ひとつのフレーズについて、英語の原文が紹介され、意味、そのフレーズが語られた文脈・背景、森さん自身がその言葉をどう解釈したかといった文章が続く。最後に、そのフレーズがどんなときに使えるか、具体的な使用場面と例文が載っている。
「いい言葉」がきれいに並べられているのではない。その言葉を発した人が、どんな状況で、どんな経験を経てその言葉にたどり着いたのかがわかるし、さらにそれを実践的な英語表現として自分でも使えそうなところまで導いてくれる。だから、読み物としても面白いし、私のような英語学習者にとっても実用的な一冊になっている。1ページ1フレーズで完結するコンパクトさもうれしい。
その中で、とりわけ印象に残った言葉を挙げるなら、“That’s our North Star.”を選びたい。「それが私たちの北極星だ」という意味で、ゴールやターゲットという言葉よりも、もっと長期的かつ心の拠り所としての重みがある表現。一生をかけて向かっていくような、かなり大きなビジョンを語るときの締めの言葉として使われている。
コーチングをしている友人が“North Star”という言葉を普段からよく使っていて、私にはなじみのある言葉だった。分野は違っても、長期的なビジョンを語るときに人が選ぶ言葉には共通するものがある。
本書の元となったインタビューは、メディアに掲載するための取材として行われ、記事として書かれたものだった。森さんは、その記事を制作しながら「これはいいな」と思ったフレーズをメモしてきたという。その蓄積が、この本の出発点になっている。
取材して、記事を書いて、納品して終わり。もちろん、それもひとつの仕事の形ではある。けれど、その過程で得た言葉や視点、相手の考え方、印象的なエピソードは、形を変えて生かせるのかもしれない。森さんは、英語インタビューの中で出会った言葉を一度きりの記事で終わらせるのではなく、あとから見返せるように記録・整理して、大切に蓄積してきた。そして、それを英語学習にも、人生や仕事を考える読み物にもなるコンテンツとして再編集している。
しかも、その蓄積量がすごい。整理が進めば、1,500以上のフレーズがあるそうだ。
それを受けて、蓄積とはこういうことなのだと思った。
一つひとつの取材、記事、言葉。その時点では、目の前の仕事のために存在しているもの。けれど、それらを記録し、並べ直し、別の文脈に置くことで、新しい価値が生まれる。
これは、自分がしている仕事にも通じる考え方だと思う。日々の仕事の中にも、たくさんの種がある。相手がふと口にした言葉。記事には入らなかったけれど印象に残った話。制作の過程で見えた考え方。そうしたものを、どんな形であれ、忘れないように蓄積しておく。
そして、いつか別の形で再編集する。どう使えるかを考える。どんな切り口で並べ直せば、新しい読者に届くのかを考える。どの角度から光を当てれば、また違う価値になるのかを考える。
蓄積は、ただ保存しておくだけではもったいない。再編集することで、次のコンテンツになる。そしてその視点は、これからの自分の仕事にも、きっと生かせるはずだと思った。
森さん、素敵なコンテンツを生み出してくださり、ありがとうございます。
Text / 池田園子
【関連本】『Tech Leaders’ English』
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