京都は今、祇園祭の真っただ中にある。
京都に来てから知ったのだけれど、祇園祭は、山鉾巡行の数日間だけを指すものではない。7月の丸々ひと月にわたって続く、とても長い祭りだ。その間、京都のまちでは、毎日のように何らかの神事や行事が執り行われている。京都観光Naviによれば、現在、祇園祭に登場する山鉾は全部で34基あるという。

そういえば京都へ来たばかりの頃、一軒家の玄関先に、不思議な形をしたものが吊るされているのを何度も見かけた。よく見ると、家によって形や飾り、書かれた文字が少しずつ違う。あれは何だろうと思っていたのだが、あとになって、それがそれぞれの山鉾町で授与された粽(ちまき)だったのだと分かった。
そんな祇園祭も中盤に差しかかった頃、私は昨年の粽を返しに行った。
昨年夏、京都の方から、祇園祭の厄除け粽をいただいた。粽といっても、食べるものではない。笹の葉などでつくられたお守りで、玄関先に飾り、疫病や災いが家の中へ入ってこないよう願うものだ。
いただいたときの私は、その意味をまだよく知らなかった。少し調べて、「厄除けのためのものらしい」と分かり、とりあえず玄関に飾った。
祇園祭の粽は、原則として祭りの時期に授与され、一年間玄関に飾る。そして翌年の祇園祭を迎えたら古いものを返納し、必要であれば新しい粽を授かる。そんな習わしがあることも初めて知った。だから今年は、自分でもその習わしに倣ってみようと思い立った。
そこで私は、昨年と同じ粽を授けていただくには、いつ、どこへ行き、どうすればよいのかを調べた。そして7月中旬、その粽を授与している山鉾町を訪ね、古い粽を返納し、新しいものを授けていただいた。
私が昨年いただいたのは、「綾傘鉾」の粽だった。祇園祭の粽は厄除けを主な御利益としているが、山鉾ごとに、祭神や御神体にちなんだ御利益も加えられているらしい。綾傘鉾の粽には、会所のある大原神社(善長寺町内)にちなみ、「縁結び・縁故守り」の願いも込められている。良い縁に恵まれた一年を願い、今年も同じ綾傘鉾の粽を授けていただくことにした。
祇園祭の始まりは、平安時代、都に広がった疫病や災厄を鎮めるために行われた「祇園御霊会」に遡るとされている。華やかな山鉾巡行の印象が強いけれど、祭りの根底にあるのは、疫病を退け、人々がすこやかに暮らせるよう願う祈りなのだ。
粽の由来にも、その祈りが表れている。スサノオノミコトをもてなした蘇民将来という人物が、そのお礼として、子孫を疫病から守るという約束を授かった――という言い伝えが、祇園祭の厄除け粽や「蘇民将来子孫也」という護符につながっている。八坂神社の公式サイトにも、この伝承が紹介されている。
京都の玄関先に粽が飾られているのは、疫病や災いが家へ入ってくるのを防ぐためだ。

昨年は、意味もよく分からないまま、いただいた粽。今年は、その由来を知り、自分の足で返しに行き、新しいものを授けていただいた。
人混みが苦手なため、祇園祭のメインイベント的に知られる「前祭(さきまつり)」などは、昨年に続き今年も行っていない。「後祭(あとまつり)」も行くかどうか迷うくらいで、家にいてYouTubeのライブで眺める可能性が大きい。
でも、用事があって河原町に行った日には「長刀鉾稚児舞披露」を、粽の返納・授与に行った日は、各山鉾町で前祭の山・鉾建てをされているのを近くで眺めることができた。
祭りと縁がなく生きてきたけれど、この営みに関心を持ち、直接的ではなくとも関与することを通して、わずかにでも、この土地の時間の流れに加わっているような気がする。
粽の授与は、各山鉾町にとって保存・修繕・運営を支える資金源でもあるという。目に見える形ではなくても、祭りを次の年へつなぐ仕組みの中に、自分もいるのだと思うと、少しうれしい。

新しい綾傘鉾の粽を玄関に飾った。今年も一年、すこやかに過ごせますように。
Text / 池田園子
【関連本】『祇園祭の歩き方』
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