600円と、見知らぬ人の親切

週末、Taroとショッピングモールへ行った。目的はUNIQLOでの買い物。

普段の私たちなら、二人で出かけるときは場所にもよるけれど、たいてい自転車を使う。けれど昨日は、Taroが自転車をクリニックに置いてきていたので、珍しく車で行くことになった。

うちから片道3kmのそのモールへ、車で行くのは初めてだった。自転車移動に慣れきっている私たちは、駐車券を受け取るという行為そのものが、頭からすっぽり抜け落ちていた。

合計数千円の買い物をしたので、当然、駐車料金は無料になるはずだった。1,000円以上の買い物で1時間、2,000円以上で2時間無料になる、という掲示は目にしていた。

ところが、精算機の前でレシートを確認してみると、駐車券らしいものはない。そこで初めて、会計は自動レジだったけれど、そのあと店員さんに申し出て駐車サービス券を受け取らなければならなかったことに気づいた。

すでに1時間近く駐車していた。料金は30分300円なので、このままでは600円かかる。

「これだけ買い物したんだから、駐車券をもらいに戻ろうよ。600円払うの、もったいない〜」

私がそう言うと、Taroは「戻る時間のほうがもったいないから、もういいよ」と言った。

確かに、店舗と精算機の往復を考えると、20分くらいはかかるだろう。ただ、休日で、このあと急ぎの用事があるわけでもない。とはいえ、本来なら払わなくていい600円。どうにも納得できず、「えー、もったいないなあ」と言いながら、精算機の前に立っていた(後ろに並んでいる人はいなかったので、そのままどうしようかと考えていた)。

すると、近くにいた男性が声をかけてくれた。

「これ、余っているので、よかったらどうぞ」

差し出されたのは、まさに私たちが必要としていた駐車サービス券だった。

「えっ、いいんですか? ありがとうございます!」

驚きつつ、ありがたく受け取った。

その男性には見覚えがあった。買い物を終えて、1階から地下へ降りるエレベーターに乗ったとき、一緒にいた人だった。

そのとき私は扉の近くに立っていたので、自然とボタン係になっていた。全員乗り切ったと思って扉を閉めた。ちょうどその直前、シルバーカーを押した女性がその場にいたのだけど、乗らずに待っているような様子だったため、てっきり乗らないのだと思っていたのだ。ところが扉が閉まった直後、「あ、これに乗るんだった」というように、はっとした様子で乗ろうとしているのが見えた。慌てて「開く」のボタンを押した。地下に着いてからも、みんなが降りるまでボタンを押して待っていた。

Taroによると、あの男性は一連の様子を見ていたのだという。

「Sonoが人の役に立つことをしていたから、駐車券をくれたんじゃない?」

本当にそれが理由だったのかはわからない。もともと親切な性格の人なのだろう。さらに、私の「もったいない」が背後から聞こえて、不憫に思ったのかもしれない(笑)。

それでも、うれしかった。

エレベーターのボタンを押すことなど、「いいことをした」と意識するほどのことではない。ただ、役割として、そこにいる人が乗れるように扉を開け、みんなが降りるまで待っていただけだ。

けれど、人は意外と、そういう小さな振る舞いを見ているのかもしれない。

人の役に立とうとしてしたことが、思いがけないところから自分へ返ってくる。600円を払わずに済んだこともうれしかったけれど、それ以上に、見知らぬ人の親切を受け取れたことがありがたかった。

ほんの小さな出来事だった。でも、人に親切にすることと、人から親切にしてもらうことが、どこかでつながっているように思えた出来事だった。その駐車券は、Taroと一緒に綴っている二人の日記に貼り付けた。

Text / 池田園子

【関連本】『正直、親切、笑顔

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