声より先に、姿勢が変わった

何かを始めるきっかけは、誰かとの何気ない会話の中にある。

数カ月前、知り合いの社長と話していたとき、ボイストレーニングに通っていると教えてくれた。なかでも印象に残ったのが、呼吸についての話だった。息を吸うとき、胸やお腹だけでなく、背中側も膨らむのだという。

へえ、面白い。普段からトレーニングをしていることもあって、身体の動きや機能に興味がある。それをきっかけにボイストレーニングについて調べ、今年の4月から、NHK文化センター京都教室の「話すためのボイストレーニング」に通い始めた。

もともと、話し方を改善することには興味があった。人前で話すときやプレゼンをするとき、どうすればより伝わるように話せるのか。そうした技術を学んでみたい気持ちは以前からあった。

ただ、調べていくうちに、話し方の技術以前に、そもそも声を出すための呼吸や発声という基本を学ぼうと思った。選んだのは、スピーチの組み立て方を学ぶ講座ではなく、腹式呼吸や脱力、姿勢など、話すための土台となる身体の使い方を学ぶ講座だった。

講師は、音声訓練士であり声楽家でもある森本まどか先生。NHK文化センターの講座案内にあるとおり、音声生理学や解剖学をもとにした呼吸法・発声法を、月1回、半年かけて実践しながら学んでいく。

通ってみると、喉や舌の使い方、呼吸による身体の動きなど、それまで意識したことのなかったことをたくさん知った。頭で理解するだけでなく、自分の身体を通して学べるのが面白かった。

そして、思いがけず大きな収穫となったのが、姿勢改善が見られ始めたこと。もともと反り腰の傾向があり、これまでにもさまざまな場面で「直したほうがいい」と言われてきた。良くないことは分かっていたものの、日常的に取り組むところまではできていなかった。ただ、今回、姿勢と発声には関係があると教わった。適切に声を出すためには、呼吸がしやすい姿勢をつくる必要がある。声のために始めた講座で、自分が長年抱えてきた姿勢の課題と、改めて向き合うことになった。

簡単な姿勢の確認方法に、「壁に背中をつけて立つこと」がある。頭や肩、お尻などがどのように壁につくかを確認し、腰と壁の間にどれくらい隙間ができるかを見ていく。意識せずに立つと、腰の後ろに手を入れたとき、かなり大きな隙間ができていた。骨盤が前に傾き、腰が反っていることが、感覚だけでなく目に見える形で分かった。

それ以来、骨盤の傾きを整える練習を毎日するようになった。ジムでトレーニングをするときも、セット間の休憩時間を利用して壁に背中をつける。姿勢を整えた状態で息を吸い、お腹だけでなく背中側にも呼吸が広がっていく感覚を確かめ、ゆっくりと息を吐く。

月に一度の講座の後半で、先生から「改善していますよ!」と言ってもらえたときは、素直にうれしかった。私のこの課題は、ほかの受講者も気にしてくれていたので、微笑みながら労ってもらえた。もちろん、月に1回講座へ通うだけで、姿勢が勝手に良くなったわけではない。けれど、講座で自分の状態を強く意識し、毎日の生活の中で実践するようになった。それだけでも、この講座に通って良かったと思う。

呼吸に対する意識も変わった。呼吸は、何も考えなくてもできる。だからこそ、普段はほとんど注意を向けない。でも、そこへ意識を向ける。たとえば、話し始める前に、息を入れる。腹式呼吸をして、お腹や背中に呼吸が広がる感覚を持つ。息が足りないまま無理に声を出そうとしない。そんな小さなことを、日常でも少しずつ意識するようになった。まあ、今も緊張して早口になると、呼吸が浅くなるんだけど……。これは改善を目指したい。

声の出し方を学ぼうと思って始めたボイストレーニングだったが、学んでいるのは声だけではない。呼吸、舌や喉の動き、姿勢、骨盤の位置。そして、自分の身体が今どのような状態にあるのかを感じ取ること。無意識でもできることに、あえて意識を向けてみると、自分の身体にはまだうまく使えていなかった機能や、気づいていなかった感覚があることを知る。

何気ない会話から始まった、月に一度の小さな学び。それが、毎日の姿勢や呼吸を見直す習慣につながった。半年間という限られた期間でも、この講座に通って良かった。声がどのように変わるのかは、これからのお楽しみだけれど、少なくとも私の姿勢と呼吸は、すでに少しずつ変わり始めている。

Text / 池田園子

【関連本】『話し方に自信がもてる声の磨き方

毎日をもっと楽しむヒントをお届けします。
「SAVOR LIFE」では、生活をより豊かにするためのアイデアや情報を発信しています。会員様限定のお知らせや限定コンテンツをニュースレターでお届けします。ご登録ください!