英語の勉強を細々と続けている。リーディングとシャドーイング、ライティング。最近、シャドーイングの教材として、いい番組を見つけた。
ドイツの国際放送DWがYouTubeで公開している「DW Documentary」だ。たまたまおすすめに流れてきたのが、見るようになったきっかけだった。
最初に見たのは、“Girls make a comeback — What India and China are doing about the women shortage”。インドと中国で、女の子が生まれることへのまなざしが、どう変わりつつあるのかを描いている。「女の子の復権」。歓迎されてこなかった女の子の誕生が、大切にされ始めている。そういう変化が込められている。
インドのパートで“spoil”という言葉が出てきた。そう、男の子は甘やかされる存在なのだ。息子は将来、家族を養う存在として期待される。でも、女の子は逆。娘はいずれ嫁いで家を出ていくうえに、その結婚にも多額のお金がかかる存在とみなされる。
背景の一つに、「ダウリー」と呼ばれる結婚持参金の慣習がある。新郎側から金品を要求され、相手の社会的地位が高いほど、額が膨らむ。娘が生まれることは、一家に将来の経済的負担がのしかかることだと受け止められる。法律では禁じられていても、慣習は女の子の家族を苦しめる在り方に形を変え、残っているというわけだ。
女の子が生まれることを負担とみなす考え方は、ときに、その命まで奪ってしまう。生まれたばかりの女の子が殺されたり、捨てられたりする。生き埋めにされる事件さえ起きている。
近年の例を調べてみると、2019年、インド北部で、亡くなった自分の娘を埋葬しようとしていた家族が、地中のつぼに入れられた、生きている新生児の女の子を見つけたという報道があった。女の子は救出され、病院に運ばれたという。
中国のパートでは、幼いころに実の親と離れ、今も自分の親を探している女性が登場する。本当の親を知りたい。その思いを抱えたまま、大人になった人がいる。
一方で、二人の娘を育てている、比較的裕福な家族も出てくる。娘たちに好きな習い事をさせ、その成長を見守っている。同じ国の中に、女の子であることを理由に手放された女性と、愛情と期待を受けて育つ女の子たちがいる。生まれた時代の違いによって、ここまで異なる人生になる。
長く続いてきた男の子を優先する考え方は、人口の男女比そのものを偏らせた。番組では、その結果として起きている男余りの現状も描かれていた。24歳から35歳くらいまでの男性のうち、4割近くが独身だという。マッチングアプリを使っても「低所得だから」という理由で断られる男性が登場する。結婚を望んでも相手が見つからない、そんな男性は珍しくない。
女の子が望まれなかった社会で、今度は女性が足りない。生まれてくる子の性別を選んできたことが、何十年もかけて、社会そのものの形を変えてしまった。この人口比の歪みは、望まれなかった側にも、望まれた側にも返ってくる。放っておいて収まるものではないのだろうと思う。

世界の今を知る手段として、経済の指標、政治の動きなど、数字や出来事をニュースでつまみ食いしてきた。対して、じっくり眺めるドキュメンタリーで触れるのは、その国で暮らしている人々の顔や生活だ。英語を練習しているあいだに、自分と直接は接点のない国の、そこで暮らす人々の実情に触れることができている。
見るときは、再生速度を0.8倍に落として、字幕をつける。流れてくる英語を聞きながら追いかけて、聞き取れなかったときや、ここは正確に知りたいと思ったときだけ、字幕に目を走らせる。速度を落とすと負担が軽くなるし、この番組の英語は比較的聞き取りやすい。
興味のないテーマだと、英語を聞いていても、音を追うだけで終わってしまうことがある。この番組では内容や背景そのものに関心が向いて、ときどきYouTubeを離脱して調べにいく。でも、そんな寄り道が贅沢に感じられる。
一本のドキュメンタリーで、何もかも知れるわけではない。それでも、意識してこなかった市井の人々の暮らしや、深く知ろうとしなかった問題に出会える。見終わったあとには、英語の言い回しと一緒に、その人たちのことが残る。見たからといって、私がその人たちに何かできるわけではないけど、知るのと知らないのとでは、前者のほうがいいと思う。
今日も再生速度を0.8倍にして、聞こえてくる英語を声に出す。時折字幕を見ながら、その向こうで語られている話に耳を傾けている。
Text / 池田園子
【関連本】『高学歴中国人移民女性のライフコース』
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