【Netflix ダウンタイム】美容医療事故はなぜ表に出ないのか、誰が責任を負うのか

Netflixのオリジナルドラマ『ダウンタイム』を見て考えたこと、その2。

この作品には、美容医療によって後遺症を負った患者や、合併症をきっかけに救急搬送される患者が登場する。それを見ながら、現実に美容医療の事故がどれくらい起きているのか気になった。

美容医療による後遺症や医療事故は増えているといわれている。日本経済新聞の記事によれば、関連する相談や被害の件数は、この10年で約5倍になったという。そのほかの報道を見ても、同じような数字が出てくる。目元の手術後に視力が低下したり、強い腫れや後遺症が残ったり、失明に至ったりするケースも報告されている。

とはいえ、ニュースなどで知ることのできる事例は、実際に起きているトラブルのうち、ほんの一部にすぎない。患者とクリニックの間で金銭的な交渉が行われ、示談が成立すれば、その事例が報道されることはない。センシティブなテーマゆえ、被害に遭った患者の多くは、自分が受けた手術や現在の状態を公にしたいとは思わないように思う。公表されている件数を超える事案がありそうだ。

『ダウンタイム』の中で、胸にシリコンバッグを入れた患者が救急搬送される場面がある。患者は胸に腫瘍があり、シリコンを入れることにはリスクがあった。それでも本人は、シリコンを入れることを切望する。この患者は芸能人で、見た目や美しさが評価に直結する世界で生きてきた。そこで戦っていくには、自分の身体を世の中が求める水準の美しさにアップデートする必要があった。とくにモデルとしての活動をするうえで、大きな丸い胸は本人にとって譲れない要素だったのだろう。

結果的に、本人が強く希望したため、医師はできる限りリスクの少ないシリコンを選び、配慮したうえで手術をしたのだった。しかし、その後、手術そのものとは関係のないところで、本人が深く考えずに軽率な行動をとってしまう(とはいえ、そのクリニックが開催した「ボトックスパーティ」が原因)。それがきっかけで救急搬送されることになり、最終的にはシリコンを取り除かざるを得ない状況に陥る。ところが患者は、自分を救った医師に「なぜシリコンを取ったのか」と怒りをぶつける。

ここには、美容医療と保険診療の間に横たわる、大きな問題がある。調べてみたところ、大規模な美容クリニックのなかには、麻酔科医が常駐し、回復室や入院設備を備えているところが稀にある(リッツが一例)。しかし、命に関わるような重篤な事態にまで対応できる施設は、軽くリサーチした限りでは見当たらない。結局は一般の救急病院に搬送されるケースが多いと聞くが、それが現実なのだろう。

そもそもの施術を行ったのは美容クリニックなのに、救命のために必要な処置をした一般の医師が、「姿形を変えられた」と責められ、ときには訴訟に巻き込まれることもあるわけだ。では、最初に施術した美容クリニックは、どこまで責任を負うのか。

臨床経験がほとんどないまま、患者の身体にメスを入れる美容外科医もいるという。人を人だと思っているのか不思議でたまらないし、その感性が怖い。これはほんの一例で、こうした悪徳美容外科医の事例を紹介しているYouTubeチャンネルを見つけたので、興味のある方は見てほしい。さまざまな事例が紹介されている。

美容医療も医療行為である以上、事故を完全になくすことはできない。ただ、利益を優先して本来なら避けるべき手術まで引き受けたり、事故が起きた際に十分な対応ができなかったりするなら、単に「医療にはリスクがある」という言葉では済まされない。

経営を続けるには資金が必要だから、医療機関が利益を上げること自体は悪くない。しかし、「美しくなりたい」「変わりたい」という人の気持ちや容姿へのコンプレックスにつけ込み、必要性や安全性よりも売上を優先して手術を勧める医師やクリニックも残念ながら存在することは、各種報道からも分かる。自由診療では、件数を増やすほど売上になる。患者の希望をどこまで受け入れ、どこで「これ以上はやらないほうがいい」と止めるのか。それは医師の倫理観や正義に基づく。

患者が求めたのだから、医師は応えただけだと言うこともできる。けれど、患者よりもはるかに多くの医学的知識を持つ医師には、患者の要求を断る責任もあるのではないか。どんな医療であれ、「目の前の患者が“よく生きる”にはどうすれば?」を考えて実行するのが、医師免許という国家資格を持つ人の使命だと思う。

表に出ている事故は氷山の一角だということ。きらびやかな症例写真の背後で何が起きているのかに目を向けると、美容医療を違う角度から考えることができる。

Text / 池田園子

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