連絡する前の10秒

東京を離れて、もう4年半になる。それでも、ときどき東京に住んでいる前提でお声がけをいただく。Facebookメッセンジャーで連絡が来る。そのたびに「今は京都なんですよ」と返している。

へえ、私、まだ東京の人なんだ。こちらは京都市内ののんびりした地域で、半袖半ズボンという少年のような格好でうろうろし、近所のお店の方たちにも顔を覚えてもらっているつもりだった。それなのに、誰かの記憶の中の私は、今もきれいめな服を着て、大都会東京で満員電車に揺られているらしい。そう思うと、ちょっと可笑しくなってくる。

東京のあとは福岡に住み、大阪を経て、今は京都にいる。たしかに引っ越しは多いほうかもしれない。これだけ転々としていたら、そのこマニアでもない限り、覚えていられないだろう。

傾向として、以前の住まいを前提に連絡をくれるのは、家族と暮らしている人が多い気がする。家族がいれば、住む場所を変えるには誰かの仕事や学校や生活が関わってくるから、引っ越しは人生の節目になるような出来事なのかもしれない。独身の私のほうはわりと身軽に動けてしまうので、「また場所変えました」くらいの感覚でいる。でも相手にとっては、そう何度も起きることには思えないのだろう。

だから、住んでいる場所を覚えていなくても、全然かまわない。東京にいると思われたり、福岡や大阪にいると思われたり、ときには住んだことのない街にいることになっていたりすると、むしろ「へへへ」と楽しい気持ちになる。

私は今、どこにいるのか。皆さんの記憶の中には、各地に私がいるらしい。でも、今、リアルそのこは京都にいますよ。

用件に支障がなければ、訂正しないこともある。私がどこに住んでいるかなんて、相手にとっては重要な情報でもないだろうし、わざわざ引っ越し履歴を説明するのも大げさだし、面倒くさい。でも、住んでいる場所が関係するお誘いだと、そうもいかないので、そこはさらっと訂正している。

皆さん忙しいし、知り合いの近況をいちいち覚えていられないのも、当然だと思う。それでも、Facebookを使っている人にひとつだけお願いしてもいいなら、こう言わせて。

「連絡くれる前に、10秒くらい私に興味を持ってくれませんかね(悲)」

一応、Facebookの居住地は引っ越すたびに変えていたんだけどね……と、心の中で小さくつぶやいてみる。数秒でプロフィールを開けば、「今は京都にいるらしい」くらいは分かったんじゃないかな。それでも分からなければ、「今どこに住んでるんだっけ?」と聞いてもらえたら、それで十分うれしい。

久しぶりに連絡する相手にも、こちらが知らないあいだに、その人の時間が流れている。最後に会った街から、とっくに動いていることだってある。

メッセージを書き始める前に、10秒だけ、その人の「今」を見に行く。私は礼儀のつもりで、そうしている。最初からずれがなければ、「あ、京都なんだ、ごめんね」と相手に謝らせることもなく、すっと本題に入れるから。

ちなみに、現在の私は京都にいます。皆さんの記憶の中にいる私も、お手すきのときに京都へ引っ越させてあげてください。

Text / 池田園子

【関連本】『「気くばり」こそ最強の生存戦略である』

毎日をもっと楽しむヒントをお届けします。
「SAVOR LIFE」では、生活をより豊かにするためのアイデアや情報を発信しています。会員様限定のお知らせや限定コンテンツをニュースレターでお届けします。ご登録ください!