Taroと二人、嵯峨嵐山にある「湯豆腐 竹むら」へ招かれる機会があった。案内してくださったのは長く京都に暮らしている方で、「京都にはおいしいものがいろいろあるけれど、やっぱり湯豆腐ですよ」と勧めてくださった。
家では冷奴ばかりで、湯豆腐を食べた記憶はない。だからこそ、その日のおいしさにはびっくりした。豆腐をお出汁で温めて食べるだけ(と書くと、お店の方に叱られそうだけれど)のシンプルな料理が、こんなにもごちそうになるのかと感動した。

使われているのは、いつも行列ができている「嵯峨豆腐 森嘉」の豆腐(一度買って帰ってご近所さんにお裾分けしたら「森嘉の!」と大変喜ばれた)で、昆布で出汁を取った湯の中でていねいに温められている。大切なのは温度で、豆腐に合った温かさで仕上げることがおいしさにつながるのだそうだ。
「最初は何もつけずに、ひと口食べてみてください」と教えていただいた。口に入れると、なめらかでとてもクリーミーで、大豆の風味がやさしく広がっていく。豆腐そのものを味わうだけで、もう十分においしかった。
あとで調べてみて、あのなめらかさには理由があることを知った。豆腐を固めるには一般的ににがりが使われるけれど、嵯峨豆腐は「すまし粉」と呼ばれる硫酸カルシウムで固めるため、なめらかでみずみずしい口当たりに仕上がるのだという。それに、豆腐はほとんどが水分でできているから、使う水が味の決め手になる。京都は昔から良質な地下水に恵まれた土地で、その水が豆腐の上品な風味を支えているのだそうだ。
それから、だし醤油と薬味を添えていただく。薬味には大根おろしやねぎ、生姜、海苔が並んでいて、いろいろ試すなかでいちばん心に残ったのが大根おろしだった。
豆腐と大根おろしを合わせて食べたのは、このときが初めてだった。どちらもさっぱりしたものなのに、一緒に口に入れると、これほどよく合うとは思わなかった。豆腐のやわらかな口当たりに、大根おろしのほのかな苦みや、少しぴりっとする辛みが加わる。それがいいアクセントになっているのかもしれない。
ひと口食べてはウキッとなって、またひと口と箸がすすんだ。湯豆腐のおいしさに驚いていたところへ、味変という新しい楽しみも重なる。
楽しみ方はそれだけで終わらない。最後に冷奴としてもひと口食べてみてくださいと勧めていただき、同じ豆腐でもまた違うおいしさがあることを知った。
コースの締めにはご飯が出てくる。そこに温かい豆腐をのせて、醤油を少したらして食べる「豆腐ご飯」も一推しされ、これが最高だった。おかわりしたくなるくらい。ご飯と豆腐と醤油という身近なものだけで、こんなにも満たされるのだと思った。

あまりにおいしかったので、二日後には近所のスーパーで、地元の有名豆腐店のものから、スーパーで販売されている安価なものまで、いろいろな豆腐を買ってきて、家でも湯豆腐をしてみた。もちろん大根おろしも用意した。
これが家でも十分にごちそうで、週に何度でも「湯豆腐祭り」をしたくなるほどだった。
豆腐はこれまでも食べてきたし、最近魚食を増やしている我が家では、大根おろしも定番の食材だ。それでも、まだ試したことのない組み合わせはあって、食べ方をひとつ教わるだけで、いつもの食材がこんなに楽しみなものに変わる。
あの日、湯豆腐に感激してから、ほかのお店にも食べにいってみたくなったし、家で食べる楽しみも増えた。

湯豆腐に大根おろしを合わせたことがまだない方は、ぜひ一度試してみてほしい。今後しばらくは、豆腐を買うときには冷蔵庫に大根が残っているかを確かめるようになりそうだ。
Text / 池田園子
【関連本】『まいにち湯豆腐』
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