「シンプルに生きたい」と、私はずっと思っている。余計なものを持たず、考えすぎず、迷わずに生きたい。できる限り。
けれど現実は、そう簡単ではない。感情が入り込んだり、状況に引きずられたり、ときに「すぐやる」を先延ばしにしてしまう自分がいる。
そんなわけで『人生をシンプルにする数学的思考』(深沢真太郎)を手に取ったのは、自分にとってごく自然な流れだった。
読み終えたあと、「なるほど」ではなく、「そうだよね」とうなずいている自分がいた。
この本で語られる「数学的思考」は、計算ができることでも、数字に強くなることでもない(計算ができるのも、数字に強いのも、もちろん望ましいことではあるけれど)。
数学とは、複雑な世界を、あえて単純にするための知性なのだと、この本は教えてくれる。
現実の世界は、複雑にできているように見える。仕事も、生活も、感情も、多様な要素が絡み合っている。
けれど数学は、その複雑さをそのまま抱え込まない。定義し、分解し、整理し、必要なものだけを取り出して、シンプルな式にする。
x+y=z
確かに、ここには必要なものしかない。
本書の中で紹介されていた「数学は人間精神の栄光のためにある」という、ドイツの数学者・ヤコビの言葉も、思わずマーカーを引いた一節だった。

とくに、仕事において「何から手をつければいいか分からない」と感じている人には、「仕事」の章をすすめたい。
・常に構造化して考える
・できる限り一言で言う
・一行で要約する
・シンプルな言葉を選ぶ
深沢さんが繰り返し勧めているのは、がんばることではなく、「単純にする」ことだ。
長々と説明するよりも、コアメッセージのほうが、よほど響く。要するに、そういうことなのだと思う。
「今のメインは何か」を決め、それ以外は「その他」として扱う。同時にいくつものことにフォーカスしない。全部を大事にしようとしない。
これは手を抜くことではなく、限られたエネルギーを、正しく使うための考え方なのだと感じた。
「生活」について書かれた章では、何度も出てくる言葉が「必要性」だった。
必要か、そうでないか。そして、その「必要」には、機能的な必要性と、感情的な必要性があるという。
この二つを分けて考えるだけで、判断は、ぐっと楽になる。
数式の中に不要な項が存在しないように、人生にも、無理に残さなくていいものがある。
迷いが生まれるのは、「必要かどうか」という軸で考えていないから。必要ならGO、不要なら進まない。それでいいのに、と思わされた。
シンプルに生きることは、何かを削ぎ落として我慢することでも、感情を切り捨てることでもない。判断基準を、明確にすること。
複雑な世界を単純にする。それは、楽をするためではなく、迷わずに生きるための知性なのだと思う。
物事を複雑にして、動けないでいる人に、そっと手渡したくなる一冊だった。
Text / 池田園子
【関連本】『人生をシンプルにする数学的思考』
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