「これしかない」を待つ人たち

「え、2カ月? テーブルなしで?」
思わず聞き返してしまいました。

実は、その話を聞く前に一度、引っ越してきたばかりの家におじゃましたことがありました。

まだ家具はほとんどなくて、あったのはスツールみたいな椅子がいくつかだけ。
「まだ家具がそろわないんだよね」と、笑いながら話していたのを覚えています。

そのときは、「家具ってそんなに時間かかる?」くらいに思っていました。

そこからさらに時間が過ぎて、結局2カ月。

「部屋できたよ」と言われて、もう一度遊びに行ったとき、私は、ちょっとした衝撃を受けました。

家族4人で暮らしているのに、2カ月ものあいだ、テーブルも椅子もなく、床でごはんを食べていたというのです。

その瞬間、ああ、この人たちミニマリストだったのか、と気づきました。

それまでは、まったく意識していませんでした。

服装はシンプルで、どこかセンスのいい人たちだなとは思っていた。
でも、それが「ミニマリスト」という在り方と結びつくほどではなかったのです。

きっかけは、引っ越しの話でした。

「引っ越してから2カ月以上、テーブルも椅子もなくてさ。床で食べてたんだよね」

笑いながら話す姿を見て、最初は半分冗談だと思いました。

だって、子どももいる家族です。
数日ならまだしも、2カ月。

なぜそんなに家具がそろわないのか、不思議で仕方がありませんでした。

聞けば、ニトリに4回も家族で足を運んだと言います。

「いいのがなくて」

当時の私は、内心驚いていました。

4回も?
そこまで吟味する?
テーブルも椅子もない生活って、大変じゃない?

……私なら、3日目ぐらいで段ボールをテーブルにしている気がします。

それからしばらくして、「部屋ができたよ」と言われ、遊びに行きました。

そこで、全部がつながりました。

部屋に入った瞬間、視界が広い。
4人で暮らしているとは思えないほど、物が少ない。

床に置きっぱなしの物がない。
「とりあえずここに」が、どこにもない。

家具はとても素敵でした。

「これ、ニトリなの?」

思わず聞いてしまうくらい、美しいテーブル。

でも、本当に驚いたのは家具のデザインではありません。

そこにある物の少なさ。
そして、余白の多さでした。

ああ、そういうことだったのか、と。

彼らは、家具が届くのを待っていたのではなく、自分たちにとって本当に必要なものを見極めていたのです。

だから4回通った。
店員さんに顔を覚えられてしまった(笑)という話までついてくる。

妥協しなかったのだと思います。

哲学を持ったミニマリストは、「これでいいかな」で買わない。
「これだ」と思えるものが見つかるまで、待つ。

だから2カ月、床でごはんを食べることもできた。

私はそこまでできるかと言われたら、できません。
さすがに2カ月は、床で食べたくない。

物を選ぶとき、彼らは機能だけで決めていたわけではないのだと思います。

「これがいい」と心から思えるかどうか。
自分たちの美的感覚や暮らしの好みに、ぴたりと重なるものを探していた。

その姿勢は、すごく伝わってきました。

私も、物によっては「これだ」と思える物でないと買わないことがあります。
でも、いつもそうかと言われたら違う。

生活に絶対必要なものは、「これ、けっこういいな」と思えた時点で選ぶこともある。
実際、これまでテーブルを選んできたときもそうでした。

完璧に理想通りというよりは、「うん、これなら十分いいかな」と思って決めてきた。
だって、テーブルなしで2カ月も暮らすのは、私にはちょっと無理だから。

だから私は、「これしかない」を待つ人ではなく、暮らしのリズムのなかで、どこかで納得して選んできたのだと思います。

でも、彼らの在り方の中に、強く共感する部分もありました。

「吟味して買う」

それは我慢ではなく、思想なのだと思いました。

最近、私もむやみに物を買わなくなりました。

気に入っているARC’TERYXのトレーナーがあります。
色違いが欲しいな、と思ったこともあります。

でも、ふと立ち止まりました。
同じものを色違いで買う意味って、ある?
一枚で足りているのに。

気に入っているからといって、増やす理由にはならない。

昔の私は、色違いで買っていました。
でも今は、もうしないと決めています。

足りているなら、増やさない。

床でごはんを食べる家族の話を聞いて、私は極端なミニマリズムを目指したいわけではないと分かりました。

それでも、「必要か?」と問い直す姿勢は、持っていたい。

選び抜いたものだけが、静かにそこにある暮らし。

私はこれから、何を「足りている」と感じて、何を「まだ欲しい」と思うのだろう。

Text / 池田園子

【関連本】『「大好きなもの」しか持たない 少ない暮らし

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