つくれると知ってしまった焼き芋

スーパーの焼き芋売り場の前って、つい足が止まる。あの香ばしく、ほんのり甘い匂い。保温ケースの中で「食べどきです、フフフ」と言わんばかりに並んでいる黄金色。何度か負けたことがある。そして毎回「やっぱりおいしい」と思う。あれは強い。

ねっとりしていて甘くて、パーフェクトな食べ物。THE・プロの焼き芋。でも基本的には買わない。理由はシンプルで、家でつくるほうが安いから。

さつまいもは、太いのだと1本150円くらいで買える。細いのだと4〜5本で300〜400円くらい。一方で焼き芋は1本300円前後。この差は大きい。だから家でつくろうと、これまでいろいろ試してきた。炊飯器に水を入れてつくる方法。電気圧力鍋で蒸す方法。どれも「おいしい」にはなる。でも、あのスーパーの焼き芋にはならない。いま思えば当然で、あれは焼いているのではなく、蒸しているからだ。

なぜか違う。甘さもねっとり感も、あと一歩届かない。香ばしさも出せない。あれはやっぱり、お店でしか出せない味なのかあ。そう思いかけていたときに、つくり方をまとめた記事に出会った。

やり方は簡単だった。さつまいもをフォークでブスブス刺して、予熱なしのオーブンに入れて焼くだけ。太い芋なら180度で90分、細い芋なら150度で90分、そしてそのまま30分放置。以上。

期待を込めて、やってみた。焼き上がった芋を割った瞬間、思った。「あ、これだ」。あのねっとり感。蜜がにじむような甘さ。完全にスーパーの焼き芋だった。

しかもこれ、ただ放置しているだけでいい。手間らしい手間は最初にフォークで刺すくらい。ただ、この「ブスブス刺す」にも意味がある。水分の逃げ道をつくることで、じっくり火が入り、あのねっとりした甘さが引き出されるらしい。むしろ、これをしないと再現できない。実際、フォークで刺す工程を省いて同じように焼いたときは、ねっとり感はなくなり、ほくほく寄りになった。それはそれでおいしいのだけど、目指していた焼き芋とは少し違うものだった。もう二度とサボらない。

焼いている時間は長いけれど、人間の労力はほぼゼロ。そして冷蔵庫で冷やすと、さらにねっとりする。冷やしたほうも好きだ。

こうなると、ますます焼き芋を買わなくなる。だって同じレベルのものが半額でできるから。もちろん電気代はかかる。オーブンを90分も使うのだから無視はできない。それでもなお「自分でつくろう」と思う。たまに屈するけど。

たぶんこれは単なる節約ではない。「再現できてしまった喜び」だと思う。あの完成された味に、自分のキッチンでたどり着けてしまった感覚。それがちょっとした達成感になっている。

だから私は今日も、スーパーの焼き芋売り場の前で一瞬立ち止まりつつ、そのまま通り過ぎてさつまいもをカゴに入れる。そして思う。「家であれ、つくれるしな」と。

Text / 池田園子

【関連本】『焼きいもが、好き!

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