比較しない買い物

また、麻子買いをした。「麻子買い」というのは、私が暮らしや食の面で信頼している友人、矢野麻子さんが「これいいよ」と言ったものを、そのまま買うことだ。自分で比較して選ぶというより、「この人が言うなら間違いない」と思う系。

今回、彼女が推していたのは、長年食べているという「土佐まほろばトマト」。高知県南国市でつくられているトマトで、「世の中にもっとおいしいトマトはいろいろあると思う。でも、これは私にとっておいしいトマトである」とスタンドエフエムで話していた。その言い方がよかった。それで、気になって買った。

「個数指定なし」を選んだら、届いた箱には「28個」と書いてあった。28個。ふたり暮らしには少し多いけれど、配ってみんなで楽しむにはちょうどいい。ご近所さんに少しずつお裾分けしながら、自分たちでも贅沢に食べていく。小ぶりなので、毎食ひとり1個。これが、本当においしい。甘い。でも、一般的なフルーツトマトのようなわかりやすい甘さではない。あと引く酸味があって、その奥にぎゅっと詰まった甘みがある。くどくない。なにこのトマト、初めて食べる味。ほっぺが何回でも落ちてしまうよ。

調べてみると、このトマトは水やりをできるだけ控えて育てているらしい。トマトの木をあえてぎりぎりの状態に置くことで、余計な水分を含まず、実に旨みが凝縮されていくのだという。だからあの、ずしりとした重みのある味になるのかな。トマトの原産地である南米高原の気候に近づけるようにしているそうで、「自然な甘み」と感じたのは気のせいじゃなかった。

届いた日の夜、何も言わずに食卓に出した。切って、並べただけ。するとTaroが、「このトマト、おいしい!」と言った。情報は一切渡していないのに、やっぱり違いに気づく。そのあとで「麻子さんが推してたトマト」と伝えると、納得したような顔をしていた。

お裾分けした人たちも、同じような反応だった。その中のひとりに、外国籍の友人がいる。その人は普段、トマトには塩をかけて食べるらしい。しかし、今回はNO SALT。いつもは塩で引き出していた味が、最初からそこにある。補わなくても、すでに満たされている。そんな状態だったのだと思う。「友人から聞いたおいしいトマト、ちょっと食べる?」とラフに分けただけなのに、味の説明がなくても、伝わるものがある。そんなトマトだった。

みんなの反応を見るのもまた楽しい。28個という数は、多いだけではなく、こうして喜びを分けられる数でもある。1.5kgで4,100円+送料1,000円。決して安くはないけれど、「トマトを買った」というより、「大きな感動を買った。みんなと分かち合った」という感じがする。だから今回も思った。ああ、麻子買い、やっぱり正解だなと。自分で選んでいないのに、自分の「好き」に見事に着地する。この感じが、たまらなくいい。たぶん私はこれからも、麻子さんを信じて、食卓においしいものを迎え入れていくのだと思う。

Text / 池田園子

【関連本】『トマト・ブック

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