
映画『TOKYOタクシー』(山田洋次監督)を観てきました。85歳の女性・高野すみれ(倍賞千恵子)と、個人タクシー運転手の宇佐美浩二(木村拓哉)が出会い、東京の街を巡りながら人生を語り合う1日限りの旅を描いた作品です。原作はフランス映画『パリタクシー』で、日本の情景と心情に置き換えて丁寧に再構築されています。
物語は、東京・柴又から神奈川・葉山の高齢者施設へとすみれを送り届けることになった浩二が、彼女の「東京の見納めに寄りたい場所がある」という願いを受け止め、寄り道を重ねるところから始まります。移動の途中、すみれはぽつりぽつりと過去を語り出し、その壮絶な人生が少しずつ浮かび上がっていきます。
若き日のすみれを演じる蒼井優さんの映像を交え、戦後の厳しい時代に翻弄されながら経験した恋愛や結婚、夫からの暴力、離婚できず追い詰められた果てに犯罪に手を染めた過去、そして刑務所で過ごした日々。すみれが涙を浮かべながら語るその告白に、浩二はなんと言葉を返していいのか分からない複雑な表情に。
スクリーンには東京のさまざまな街並みが映し出され、まるで自分が浩二のタクシーの後部座席にいるような感覚になります。東京で暮らしたことのある人なら、映る風景が記憶と重なり、懐かしさが込み上げてくるかもしれません。
本作が教えてくれたのは、「今日会った人と、次に会える保証はどこにもない」ということ。後半でふたりは再会を約束しますが、数日後、すみれは帰らぬ人となります。残された手紙が浩二と家族の人生を静かに動かす一方で、生きている彼女には二度と会えなかったという喪失が残ります。
だからこそ、いま目の前にいる大切な人との時間を慈しみたい――そう強く思わせてくれる作品でした。(そして、キムタクはやっぱりかっこいいし、倍賞さん、蒼井さんそれぞれの美しさにも魅了されます)。人生の重みとあたたかさを丁寧に描いた映画で、観に行って本当によかったです。
Text / 池田園子
【関連本】『FLIX 2025年12月号』
「SAVOR LIFE」では、生活をより豊かにするためのアイデアや情報を発信しています。会員様限定のお知らせや限定コンテンツをニュースレターでお届けします。ご登録ください!


