ただ気になるから、やってみる

先日、とある社長とお会いしたときのことです。常に最前線にいるような、お忙しい方。ふと、こんな話をしてくれました。

「最近、仕事とは関係ないことを、あえてやるようにしているんです。目的も特にないようなことを」

へえ、と思いました。私たちは、何かをやるときに目的や意味を求めるものです。特に向上心のある人ほど、「それは仕事にどう生きるのか」「どんな意味があるのか」と考える傾向があるからです。

そんな流れの中で、その方が続けて言ったのが、「最近、ボーカルレッスンを受けているんです」。

思わぬ方向から来たな、と少し驚きました。話を聞いていくと、さらに面白い。発声するとき、人はお腹だけではなく、背中も使うのだそうです。後背部がふわっと膨らむのだと。

「筋トレしてると、こういう話興味あるでしょう?」と微笑みながら言われ、ばれているなと思いながら「はい……」と答えてしまいましたが、同時に、どこかでこうも思っていました。それって、結果的に仕事にも生きるのではないか、と。

人前で話す機会の多い社長です。声の出し方が変われば、伝え方も変わる。プラスになるに決まっている。けれど、その方はあくまで「ただの興味でやっている」と言うのです。

何かを選ぶとき、理由を探すこと自体は悪いことではありません。これは仕事に生きるか。これは成長につながるか。今の自分に足りないものを補えるか。特に仕事に関わることなら、なおさらです。

でも、そうやって目的ばかりを持ち込んでいると、気づけば「遊び」の部分がなくなってしまう。だからこそ、社長の「ただ興味があるからやっている」という姿勢が、とても新鮮に映りました。

その流れで、自分の話もしました。ニューヨーク発祥の中国伝統芸能ショー「神韻(しんゆん/Shen Yun)」を観に行く予定がある、と。

きっかけは、ポストに入っていた一枚のチラシでした。あまりにも華やかだったこともあり、最初は少し警戒したくらいです。けれど気になって調べてみると、公式サイトや観に行った人のブログなどから、興味深い背景が見えてきました。

神韻は、中国古典舞踊や音楽を中心とした舞台芸術ですが、中国本土では上演されていません。背景には、中国共産党との関係性や表現内容の違いがあるとされ、演目の中にはそうしたテーマを扱うものもあるようです。一方で、数百人規模のアーティストが世界中を巡業し、2時間半にわたる舞台をつくりあげているというスケールの大きさも知りました。

そうした情報を一つひとつ追っていくうちに、「一度、自分の目で見てみたい」という気持ちが強くなっていきました。

仕事とは直接関係ないし、何かに生かす予定もない。それでも、「ただ気になるから行く」と決めたのです。

思えば、こういう選び方は久しぶりでした。本を選ぶときも、小説などのお楽しみを除くと、知識やスキル、ヒントを得る目的が先に来る。必要だから読む。もちろんそれも大切なのですが、そればかりだと、どこかで自分の感性が痩せていく気もします。

一見、自分の仕事や生活に直接結びつくわけではなさそうなこと。けれど、なぜか気になること。理由はうまく説明できないけれど、心が少し動くもの。

そういうものに、あえて時間を使ってみる。それは遠回りのようでいて、とても豊かな時間なのだと思います。

忙しい社長が、それを楽しんでいる。その姿が、とても素敵だなと思いました。

だから私も、もう少しだけかろやかに、理由のない選択をしてみようと思います。「ちょっと気になるから」でいいんです。

Text / 池田園子

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