
高級なパックをもらった。
テレビCMで見たことのある、誰もが知ってるような有名なパックで、調べると1枚あたり二千円近くすることがわかり愕然とした。普段家からほとんど出ない私には、1枚あたり二千円のパックを使って出かける先がない。
1枚あたり二千円を超えるパックを使い、出かけるにふさわしい場所を考えてみる。同窓会はおそらくそれに値するが、開かれる予定はないというか、どこかで開かれてるかもしれないけど呼ばれていない。何かの授与式みたいなパーティもふさわしいだろうが、そもそも何かを授与されるほど褒められることをしていない。この先の予定を調べても、入っているのは「仲のいいライターさんと好きな本を発表し合う」という謎イベントで、しかも場所はzoomだった。
高級なパックに見合う身の丈を生きていない。そういうことだな、と思って仕事用デスクの書類の山の上に置いた。ずっと使うことのないまま仕事をして、寝て、暮らし、やがて季節は夏になった。夏休みを迎えた息子たちは毎日自堕落に過ごし、私も彼らの親として恥じないよう、アニメの一気見や漫画の通読に本気で付き合った。楽しかった。しかし大人としてやらなければいけないすべてのことを後回しにした結果、私だけが徹夜する羽目になった。
びっくりするほど終わらなかった。気長にやるしかないと雑誌をめくり、スマホでくだらない動画を見た。気づくと3時を回っていて、絶対にもっと早く終えられたのにとさっきまでの自分のだらしなさを悔いた。40歳を目前にして、自分がまだこんな生活をしていることにびっくりする。自分の親は40歳のときにもっと規律正しい暮らしを送っていたし、こんな時間までスマホを見たりしなかった。鏡に映った自分を見ると、肌が砂漠みたいだった。こんな時間まで起きて、ずっとエアコンの冷気浴びているのだから当然だ。
一体、何時に終えられるんだろうと鏡から目を背けると、そこに高級パックがあった。そうだ、私にはこれかあった。たとえボロボロになっても、私にはこれがあるのだった。徹夜しても、どれだけ無茶しても、高級パックがすべてをリセットしてくれる。今まで感じたことのない勇気が湧いてきて、一人なのに一人じゃないみたいだった。
結局その日は朝方まで徹夜して、倒れ込むようにして昼まで寝た。一回寝たら肌のことはどうでも良くなってしまい、結局パックは未使用のままだ。だから、私はきっと次の徹夜でもこのパックに勇気づけられると思う。身の丈に合わない高級パックって、使うものじゃなく飾るものなのかもしれない。世界の真理にまた一つ近づいた気がした。
Text / 山本莉会
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