『死刑囚の理髪係』を読みました。本書は、東京拘置所で「理髪係」を務めた著者・ガリ氏による、死刑囚や受刑者との日々を描いた記録です。
著者は理容師資格を持っていることから、約2年半にわたり、死刑囚や受刑者の髪を切る刑務作業に従事しました。全国の理容師のなかで、こういった経験をする人はほとんどいないでしょう。
本書には、著名な事件の加害者たちが登場します。秋葉原無差別殺傷事件や相模原障害者施設殺傷事件の死刑囚など、市井の人ならばニュースでしか見たことのない人物と、理髪を通じて向き合った日々が静かに、そして生々しく綴られています。
刑事訴訟法では、死刑の執行は判決確定後、原則として6ヶ月以内に命じ、そこから5日以内に執行するよう定められています。しかし現実的な運用では、執行当日の1~2時間前に知らされ、そのまま刑場に連行されることが大半。
読み進めるうちに、死刑囚が何を考え、どんな表情を見せるのかが浮かび上がってきます。彼らは重い罪を犯した人間であると同時に、ひとりの人間でもある。著者とのやり取りを通して、その二面性や複雑さが伝わってきます。
同時期に『教誨師』(堀川恵子)も読み進めていたからこそ、死刑囚の「犯罪者という一面」だけでない多面性、彼らの語りから匂い立つ人間性に着目しました。ちなみに、教誨師は刑務所で受刑者に徳性教育を行い、改心へと導く活動を担う人のこと。報酬はなく、多くの場合、僧侶や牧師などの宗教家がこの役割を務めるそう。
話を『死刑囚の理髪係』に戻すと、もし自分の家族が被害者だったら、そんな視点からものを言う余裕などないと思いますが、それでも死刑とは何かを考えさせられます。
日本はG7、先進7ヶ国首脳会議の参加国のうち、アメリカと並び死刑制度を維持している唯一の国であり、世論も賛成派が7〜8割という現状があります。世界196ヶ国のうち、過去10年以上死刑を執行していない事実上の廃止国を含めると、死刑制度廃止国は145ヶ国にも及びます。7割以上の国が死刑をしていない、ということなんですね。
国連やEUからの批判も根強いなか、なぜ日本の死刑は存続しているのか。本書はその問いに直接的な答えを出すわけではありませんが、現場の実際のところを通して読者の内側に疑問を芽生えさせます。そもそも死刑とは、死刑囚とは、犯罪が起きる背景とは。そんなふうに「?」を生じさせられるのです。

普段の生活では接点を持たない世界に触れ、日常的にゆっくり考えることもなかったテーマについて考えるきっかけをポンと提供してくれるのが本の魅力だと、改めて感じさせられます。
Text / 池田園子
【関連本】『死刑囚の理髪係』
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