初めての挨拶に選んだ、定番のお菓子

先日、手土産には羊羹がいい、という話を書いた。これはひとつの選択として間違いないと思っている。羊羹は強い。外さない。格式もある。あらゆるシーンで頼りになる、手土産界の優等生のような存在。

ただ、手土産にはもうひとつ、まったく違う方向の正解があると思っている。それは「とても定番のもの」である。

少し前、京都で長く会社を経営している方のもとへ、ご挨拶に伺う機会があった。ご紹介いただいて初めて訪問する場だ。さて、何を持っていこうか。

ぱっと思いつくのは、いわゆる京都の名店の和菓子である。有名で、格式があって、誰に出しても恥ずかしくないもの。けれど、考えるうちに、すぐに違和感が出てきた。これは違うな、と思った。

相手は京都で長く商売をしている人。つまり、その土地のことを知り尽くしている人である。そこへ京都の名物を、外から来た私が持っていくのは、どこかずれている気がした。

そもそも私は京都の新参者。しかも今回は、まだ何かが始まるわけでもない「初回のご挨拶」である。その場に、格式ばったものや高価なものを持っていくのは、どうも大げさな気がした。

そこで発想を変えた。もう、ベーシックなお菓子でいいのではないか。誰もが知っていて、誰でも食べやすいもの。個包装で、どんな職種の人でも気軽につまめるもの。そう考えたときに思いついたのが、明治のチョコレートBOXだった。

スーパーで売っている、26枚入りのチョコ詰め合わせ。ブラック、ミルク、いちご、抹茶……いろいろな味が入っているあの箱を、三つか四つ買った。会社のどこかに置いておけば、仕事の合間にひとつ。少し糖分がほしいときにひとつ。誰でも気軽に手に取れる。

しかも明治のチョコレートには、どこか安心感がある。多くの人が知っているブランドだし、「これ嫌いです」という人もあまり聞かない。派手ではないが、信頼できる味だ。

結果として、この選択はとてもよかった。紙袋の口を少し開けながら、「いくつか種類を買ってきました」と中を見せると、「わあ」と言いながら皆さんがのぞき込んできた。ブラック、ミルク、いちごと箱がいくつも入っているのが見えると、ぱっと場の空気が明るくなった。

それぞれ好きな味を想像しながら見ている様子を見て、ああ、これは正解だったなと思った。高級菓子とは違うけれど、場の空気にはむしろ合っていたのだと思う。

以来、私はひとつの教訓を持っている。長くその土地で商売をしている人を訪ねるとき、とくに初回の挨拶のような、まだ何も始まっていない場面では、無理に「その土地らしいもの」や「格式のあるもの」を選ばなくてもいい。

むしろ、誰もが知っている普通のお菓子。個包装で、気軽に食べられるもの。そういうベーシックなお菓子のほうが、相手も気負わない。

手土産というのは、豪華さで勝負するものではない。場の温度に合わせるもの。そういう意味で、スーパーで買ったチョコレートも、かなりいい手土産だったと思っている。

Text / 池田園子

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