「何かを分かっている」と思うのは過信のようなもので、とくに「特定の相手、親密な相手のことを分かっている」なんて、おこがましい発想なのかもしれない——。
映画『アンダーカレント』を観た人には頷いてもらえるような気がします。
たとえば、あなたのパートナーを「〜〜な人でしょう」と知り合って間もない他人から定義され、それに違和感を覚えたとき。
「あなたよりは、私の方がパートナーのことを分かってますけど」
半分怒ってこう言い返したあとで、「人を分かるって、どういうことですか?」と問われたら。
あなたは明確に答えられますか?
真木よう子×今泉力哉が魅せる大人の物語
本作は、2005年に刊行された伝説的漫画『アンダーカレント』(豊田徹也)が、『愛がなんだ』『ちひろさん』などで知られる今泉力哉監督によって映画化されたもの。
主演を務めるのは真木よう子。夫が突然失踪してしまうも、日々を淡々と生きる銭湯「月乃湯」の女主人・かなえを演じます。
夫が失踪したかなえの前に、突如「働きたい」と現れる謎の男・堀を演じるのは井浦新。口数は少ないながらも、かなえに寄り添い、助けようとします。
かなえの夫・悟を永山瑛太、失踪したかなえの夫の行方を探す探偵・山崎をリリー・フランキーが演じます。
かなえと悟の同級生であり、かなえに探偵・山崎を紹介する菅野を演じるのは江口のりこ。実力派、個性派のベテラン勢が集結しています。
「B面」を突きつけられたら
山崎とかなえの初対面のシーン。
「ご主人のことが見えてこない」と言う山崎。悟はこういった人物ではないか、という山崎独自の憶測やイメージを告げられるかなえ。
「少なくともあなたよりは彼のことを分かっています」と、怒りを込めながら静かに伝えます。ふたりには共に過ごしてきた歳月の重みがあります。
しかし、それに対し、山崎は「人を分かるって、どういうことですか?」と返したのでした。
かなえは言葉に詰まります。
ここで受け手の多くはハッと、映画の世界から現実へと揺り戻される感覚を抱くのではないでしょうか。良くも悪くも、そのセリフを「自分ごと」化してしまうのです。
親しい人の、自分がまったく介さなかった、一瞬たりとも触れてこなかったB面を突きつけられたとき、自分は相手のことを分かっている“つもり”だった、だけではないか、と愕然とするのです。
「できるだけ、分かりたい」
悟はかなえにいくつもの嘘を重ねていました。かなえが悟の口から語られたことしか知らないのも当然のこと。
でも、嘘をつかない人であっても、相手にすべてのことを伝えているとは限りません。伝えるべきこと、伝えなくていいことを仕分けています。
私だって、あなただってそう。相手に言うこと、言わないことを仕分け、公開可能なことだけを伝えています。
だからこそ、相手といくら関係を築こうとも、「この人のことを分かっている」なんて確信したり、自信を持って言い切ったりするなんて、できっこないはずです。
「分かっている」ではなくて、「できるだけ、分かりたい」と思い、相手を知ろうとする行動こそが、傲慢ではない、誠意ある関わり方なのではないか。そんなことを考えさせられました。
ラストは「そこで終わるの?」と少し驚く内容でしたが、入り込んでしまう143分。『アンダーカレント』は10月6日(金)より全国にて公開です。
『アンダーカレント』作品情報
出演:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、内田理央
監督:今泉力哉『愛がなんだ』『ちひろさん』
音楽:細野晴臣『万引き家族』
脚本:澤井香織『愛がなんだ』『ちひろさん』、今泉力哉
原作:豊田徹也『アンダーカレント』(講談社「アフタヌーンKC」刊)
製作幹事:ジョーカーフィルムズ、朝日新聞社
企画・製作プロダクション:ジョーカーフィルムズ
配給:KADOKAWA
©︎豊田徹也/講談社 ©︎2023「アンダーカレント」製作委員会
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