ポストカードで持ち帰る旅のときめき

半年ぶりに実家に戻ると、その散らかった家に圧倒される。典型的な捨てられない家族なので、ありとあらゆる雑貨や服を溜め込んでいるのだ。数年前まで自分のものだった部屋で、がらくたの城壁に護られながらふとんに潜りこみ、まるでハウルの動く城だなあと眠りにつく。

今はワンルームにひとり暮らし。実家を反面教師にした私は、物は増やさないと心に誓った。片付けが苦手なら、そもそも物が少なければいいはずだ。まずは最低限の家具を揃えた。けれども本は毎月増え、雑貨も段々と存在感を増している。3年経って1勝1敗といったところで、まだまだ精進が足りないらしい。

でも、だからといって極限まで物を減らしたくはない。たとえば、スープをよそうのが楽しくなる食器や日々の疲れを癒すいい香りのボディークリームは必要だと思う。きっとミニマリストにはなれないから、小さなときめきを長持ちさせることができる人になりたい。

旅先にも、ときめきはたくさん落ちている。バックパックひとつで身軽に家を出て、例えば異国のビーチで本を読んだり、ひとりで四国を一周してみたりする。平日は会社員として働く私は、ほとんど毎月どこかへ出かけている。

旅先には珍しい出会いが多い。非日常の興奮に背中を押され、いつもより欲しいものが増える。例えば屋台に雑多に並ぶモニュメントや、ミュージアムショップの前衛的なグラスに惹きつけられるのだ。

そんなときに、ふと自分との問いが頭をよぎる。これは本当に私が好きなものだろうか。環境に興奮しているだけで、家に帰ってからもこれが輝いて見えるだろうか。わくわくして迎えた新たな物たちが、結局捨てられ、あるいは心地いい空間に置かれないことは寂しいから避けたいと思う。

だから私は、美術館の絵やカラフルな街並み、雄大な自然など、印象に残った場所ではポストカードを2枚買うことにした。買うか買わないかは、直感が頼りだ。差し込む光や色が自分の心をとらえて、思わず足を止めてしまうとき、その場所に自分がいる感動を持ち帰りたいと思う。雑貨よりかさばらなくて、スマホの中の写真よりお土産らしい満足感がある。

たった1枚を厳選するのは難しいので、少し自分を甘やかして2枚。おばあちゃんに連絡するという口実で、自分用と祖母用にする。手当たり次第に買わなくなったら、選んだものに愛着が湧いて、リュックの中で折れないように持参した文庫本に挟むと、慎重に帰路に着く。

小さな、けれどもあるべき場所にそれぞれがきちんと居場所を見つけている部屋に戻ってくる。アルバムに写真を収めるように、ポストカードもクリアケースにしまう。祖母への手紙は旅先で投函することもあれば、帰ってきたよと報告することもある。

日々にときめける余白のある部屋に住み、そこにある小さなものたちをじっくり味わって愛でてみる。少しだけ、大人になれたような気がする。小さなときめきを長持ちさせる暮らしは、まだまだ始まったばかりだ。

Text / mayu

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