「落ち着かない自分」にしっくりくる賃貸暮らし

「永遠の論争」と言われることもある、不動産における「賃貸か購入か」問題。

主義・思想の違いだから、良し悪しやコスパ、メリット・デメリットを対立する者同士で議論するのはナンセンスだと思っています。

「好み」で選べばいいし、賃貸とも購入とも違う、ホテル暮らし派、海外のサービス・アパートメント暮らし派だって存在します。新しい住まい方を自分で編み出したっていいのです。

今の私は賃貸派です。20代のときは「30代になったらマンションを購入するんだろうな」とイメージしていましたが、予定は未定で、変わっていくのが自然。

それでも、30代前半に突如「マンションを買いたい」と思い立ち、既知の不動産事業者に連絡して2,000〜3,000万円台(当時)で購入できる1LDKを中心に、中古物件を2〜3件内見したことがあります。

東京・駒込に住んでしばらく経つ頃で、駒込というエリアを気に入って「ここに半永久的に住みたい」熱が高まっていました。

自分でも「あまりにも執心している」と苦笑してしまう物件がありました。駒込を代表する日本庭園、六義園沿いに建つ人気立地の中古マンションで、ベランダからの眺めが忘れられなかったのです。

大きな窓のすぐ向こう、手を伸ばせば届くくらいのところに六義園内の植栽を眺めることができて、窓枠が額縁のような役割を果たして植物画のようにも見えました。

植物の近くに住まうアートな暮らし。そんな言葉が思い浮かんで、帰宅後も物件のことが頭から離れず、数日熱に浮かされたように想い続けていたのです。

フルリノベ済みの築年数45年を超えた古い物件。8年ほど前、3,000万円くらいでした。

しかし、結局買いませんでした。

住宅ローンを組みたくなくて、現金一括払いで買おうとしていたのですが、それだと銀行口座がすっからかんになってしまうこと、修繕積立金や大規模修繕に伴う突発的な大金を払うのを負担に感じたこと、賃貸とは比べ物にならない重すぎる決断であることなど、種々の不安から購入をやめたのです。

「今じゃなくてもいい。また購入したくなったら、また考えればいい」と言い聞かせました。

現時点では、賃貸で良かったと考えています。いつかは東京から西の方に引っ越したいと漠然と考えることが、数年に一度の頻度でありました。

その流れで2022年からは福岡に、2024年からは大阪に住んでいるわけですが、物件を購入していたら今ほどかろやかに移動するのは難しかったことでしょう。

売却するか賃貸に出すかの選択肢があるとはいえ、それらの準備にも追われたはず。

さらに、2021〜2023年まで続けた自分の拠点−パートナーが住む大阪との二拠点暮らしも、もし自分が物件を所有していたら実現したかなあと考えます。物件に縛られて東京から動けないでいたかもしれません。

購入を真剣に考えていたとき、自分がとても飽きやすい人間であることを忘れていた点も危なかったとしか言えません。

今まで10回引っ越しをして、更新は一度しかしたことがないくらい住み替えが好きな人間が、ひとつの物件に落ち着いて住めるだろうか、と。購入にとらわれすぎて、自分を客観的に見られなくなっていたようです。

あくまで私の場合は1ヶ所にとどまるよりも、いろいろな場所に住みたいわけで、賃貸というスタイルが合っているのだと確信しています。

特に、2年間住んだ福岡は大好きな街で、また住みたいとさえ思っています。彼と猫とすぐさまファミリーで移るのは残念ながら現実的ではありませんが、今でも虎視眈々とそのチャンスを狙っているくらいですから。

これまで「高齢になると賃貸物件を契約するのが難しくなる説」は広く知られてきました。不動産関連の編集業務をしていた昔、未来の自分を想像してうっすら心配になったのを覚えています。

ただ、高齢社会の進行が止まらない今、高齢者を顧客から除外すると不動産業界は多くの顧客を失うことになります。

そう考えると、今はおばあさんになっても賃貸暮らしを続けていられるような気がします。賃貸というシステムに今は乗っていたいです。

Text / Sonoko Ikeda