嫌な絡み方をされたとき、気の利いた言葉を発せる人になりたい

12月31日11時半の京都。「一年の最後に、こんな店に入ってしまうとは……」と悔やむ私がいました。

パートナーとふたり、朝から所用で大阪から京都に移動し、その時点で5km近く歩いていたこともあり、お腹がぺこぺこに。

大晦日の昼に年越し蕎麦を望むも、近くに蕎麦店がなく、目についたラーメン店に入ることにしました。

蕎麦とラーメンはまったく異なる食べ物です。この妥協が凶を引くことになったか、とも一瞬考えました。

券売機に貼られた大量の注意書きを見て、クセの強い店主が経営する店だなと怯むも、付近に蕎麦店どころか飲食店もほぼなく、昼はここで済ませようと決定。

細長く薄暗い店内を奥に進み、指定されたカウンター席に座って食券を手渡し、注文した品が出てくるのを待ちます。

私たちより後に入ったひとり客に提供があったあとも、待てども麺は出てきません。その間、暇だったので、カウンターの中で動き回る店主や調理場の様子を見ていました。

ベテラン調理人と思しき店主の動きは興味深いものです。どんな道具をどう使っているのかも。

客席からオープンになっている以上、調理場自体は舞台のようなもの。それにカウンター席だからこそ、カウンターの中に目が行くのは自然です。

「俺、男からじろじろ見つめられるの、やなんすよね」

20分以上経つ頃、不意に店主が彼に「お兄さん(自分と)知り合いでしたっけ?」と話を振ってきました。

「いや、知り合いじゃないです」と彼。それを受けて店主は、店内に響き渡るような大声でこう言いました。

「知り合いじゃないですよね。さっきからずっとこっちのこと見てますよね。すごい視線感じるんですけど、俺、男からじろじろ見つめられるの、やなんすよね。俺見るんじゃなくて、奥さん(私のこと)隣にいるんだから、奥さんと見つめ合ったらいいじゃないすか」

体格が良く威圧感のある40〜50代の店主から、考えもしなかった言葉、これまで飲食店どころか他のどこでも掛けられたことのない言葉が発せられ、私はフリーズしていました。

予想外の何かに出会うと、固まって声も出ないのか、彼を守れないのかと、不甲斐なさや情けなさを感じました。

慣れている相手であれば、軽快なレスポンスができるのにと、悔しい気持ちも湧き上がってきます。それでも、言葉が出てこない。

標的にされた彼も私も、店主を不躾な視線で見つめていたわけではありません。ただ、カウンター内の全景を見ていただけなのに。

どうリアクションすれば良かったのか?

「どうしてこんな絡み方をされるんだろう」と、意味のないWHYを打ち立てては不快な気持ちになりつつ、「どう返すのがいいだろうか?」という問いが頭をぐるぐる巡っていました。

「感じ悪いな。帰ります」と言って席を立つ選択肢が浮かびましたが、ここまで待ったし、空腹な中でほかに店もないし……というサンクコスト効果と状況が、私のお尻を上げることはありませんでした。

そこからさらに15分ほど待つことになります。

その間、正面という座っているとナチュラルに目に入る方向を見ていると、また絡まれそうな気がしたので、仕方なくスマホを取り出して店の口コミをGoogleや食べログで見るという暇つぶしをせざるを得ませんでした。

私は食事中、一部の料理を記録として撮る以外、スマホを見ません。しかし、今回は例外でした。

Googleの評価は賛否両論で、否定的なコメントには、私たちと同様に店主から不快な言葉を投げつけられた、ほかの常連客を巻き込む形で嫌なことを言われた、悪口を言われたなど、コミュニケーション不和が目立ちます。

「なるほどですね」となりました。店主の虫の居所が悪い日に当たってしまったのかもしれません。

その後ようやく提供された品を私たちはほぼ無言で食べました。嫌な絡まれ方をしたこの場所に長くいたくないと思ったからです。

食前の気持ちよくないやりとりが味覚にも影響し、「塩辛い」という印象が強く残り、あのとき楽しい会話があったならば、味は変わっていたんだろうなとも感じました。

最後の方で店主が、ほかの常連客に聞いた流れで、彼にも「肉(チャーシュー)、買う?」とタメ語で聞いてきましたが、不要なため断って会話は終わりました。

不快な絡みへのレスポンス、5パターン

この原稿は元日に書いていますが、昨日の今日で何度かこの不快な出来事を思い出す瞬間があり、なんと返すのが良かったのか、どんなレスポンスのパターンがあるのかを考えていました。

1.食べずに席を立つ
「感じ悪い対応。帰ります」

2.自意識を指摘する
「店主さん、自意識過剰ですよー。まだかなって思って、後ろの鍋とか材料とか見てただけですけど?」

3.冗談で返す
「いやいや、私たち仲悪いから、見つめ合うの無理なんすわ」

4.生真面目に返す
「え? 見てませんけど」

5.感情をそのまま伝える
「逆に、そういうこと言われて驚いてるんですけど……。カウンターに座って、ただ前見てて、そんなこと言われるの初めてなんで、戸惑ってます。あなたは私たちにどうしてほしいと思っていますか?」

これくらいでしょうか。彼にもこのパターンの話をしたら「その子さんとふたりじゃなくて、僕ひとりだったら確実に店を出てた。これ以上のパターンは思いつかない」と言われました。

カウンター席に座って、料理が出てくるまで、キッチンの様子をぼんやり見るのは、喧嘩腰で絡みたくなるくらい、店主にとって不愉快なものなのでしょうか。

あのとき、どんな対応をするのが正解だったのか、あるいは正解に近かったのか、わかりません。

私が目指す「素直な人」であるためには、5がいいのかなというのが、今のところの結論です。そのときに店主が感じた「課題」を紐解くのも勉強になるでしょうから。

皆さんの意見も聞かせてください。

結論。変な絡みをありがとう

そして、あのときの店主へ。

大晦日に最悪で最高のフリをありがとうございました。こうしてエッセイのネタにできたのはラッキーでした。

彼というパートナーかつ親友と一緒にあの現場に行ったからこそ、ふたりで「なんだったんだろうね、あれは」と振り返ることのできる記憶にもなっています。

二度と行きませんが、偶然の出会いに感謝しています。だから、人生は面白いとも思うのです。

Text / Sonoko Ikeda