キッチンで頼りになる布たち

当たり前を疑うことを繰り返していると、生活の中で「これはなくてもいい」と気づいて、暮らしそのものがシンプルになっていきます。

モノも減っていくし、ひとつで何役もこなせるモノが残ることになります。

なくても生活が成り立つと私が考えるアイテムのひとつにキッチンの「水切りカゴ」があります。

思い返せば、実家には家族5人分の食器や調理に使った鍋などを一時的に並べられる、ステンレス製の大きな水切りカゴがありました。

それを見て育ったからか、実家を出ても水切りカゴは必需品だと思い込んでいたようです。

ただ、初めて住んだ1Kの部屋はひとくちコンロ。まな板は流しの端とガス台の端に橋を渡すようにして置いていました。

調理スペースは十数センチほどの幅のみ。そんな使いやすさのかけらもない極小キッチンには水切りカゴなんて置けません。

食器類は洗い物を済ませたそばから布巾で水気を拭き取り、棚にしまっていたようなおぼえがあります。何しろ狭くて場所に余裕がないから仕方ありません。

その後、何度か引っ越しをして、調理場が徐々に広くなっていくと、状況は変わっていきました。

調理台に大判のハンカチや手拭い、木綿のクロスなどを敷いた上に、洗い物をした食器類を置いて自然乾燥させるようになりました。

1〜2時間で水気は適度に取れるので、片付けるときは布巾でさっと拭くだけでOKです。

使う食器の量が多いと下に敷いた布は水気でぐっしょりと濡れます。でも、ワークトップ(天板)はたいていステンレスで耐水性も高いから気になりません。

加湿器の代わりではありませんが、部屋の湿度を上げるのに一役買っているようにも思います。

ちなみに、この「洗い物一時置き場用布」には統一性がありません。

お相撲さん柄の大判ハンカチやパン柄の大判ハンカチ、フランス小物の店で買った木綿100%の厚みのあるクロス、色褪せてきたいただきものの手拭い、無印良品で10枚1セットくらいで買った布巾など。

料理をして洗い物をする度に交換するので、昼夜2回料理をすれば1日に2枚は使います。洗濯や乾燥のことを考えると、5枚以上あるとちょうどいいです。

以前「水切りマット」なるものが売られているのを知り、買ってみようかなと迷ったことがありました。シンプルなデザインのものを買えば、今よりも洗い物後の見栄えが良くなるなあと考えたんです。

でも、説明書にある「繰り返し使ううちに吸水性が下がる」との文言を見て買うのをやめました。今ある布たちで十分じゃないか、となりました。

それに、洗い上げた食器たちの下に敷いた布の柄を、いつ、私以外の誰が見るのだと自分に問いかけました。ひとり暮らしの家に、そんな誰かがいたらむしろ怖い。

洗い物一時置き場用布たちは優秀です。食器類の水を受け止めることもできれば、食器類の水分を拭うこともできます。

置き場としても、置き場から棚へ移動させる前の布巾としても使えます。もう5年近く使っている布たちは未だ現役で、いつまでも活躍してくれる気配しかありません。

そんな強く、体力のある布たちを愛おしく思っています。

Text / Sonoko Ikeda