日常茶飯とごちそう、どちらも楽しむ。私の場合

突然ですが、フランス語で「日々の糧」を意味する「Le Pain Quotidien(ル・パン・コティディアン)」という言葉は、US、UK、パリの他、日本にもフランチャイズを展開するパン屋の名前にもなっています。

そんなフランス人の日常にとってパンのような存在や、日本語の「日常茶飯事」の「茶飯」を言い換えて当てはまるような、当たり前となっている存在。

皆さんの生活の中で、何が思い当たるでしょうか。

一方、最近近所のベーカリーで見かけたのが「ごちそうパン」というコンセプト。

パンに「ごちそう」と付くだけで、それが新鮮に思えてくる不思議さがあるとともに、少女時代の私にとってパンはごちそう感覚だったのを思い出し、はっとさせられました。

言葉遊び的ですが、今の生活で「日常茶飯」にも「ごちそう」にも振れるものが、パン以外にもあるのではと振り返ってみると、ありました。

真っ先に思いついたのは本屋さんです。

今日は読書の秋に合わせて、私の本屋づきあいを紹介します。

 

私は大都会の大型書店、expressとついた駅改札内の本屋、スーパーやコンビニの雑誌棚に至るまで、平日休日問わず足繁く通っています。電車を乗り継いで1日にふたつの本屋を往来するのも日常茶飯事。

仕事を始めて約10年目の今、リモートワーク場所の隣に本屋、あるいは、リモートワークの場所が本屋の中にあるということが何より大きな働き方の変化です。

書店空間が好きなあまり「職住近接」ならぬ「職書近接」になっているのです。

20代のほとんどの時間、平日5日オフィスで過ごしていた頃の私には想像しなかった働き方ですが、今は本屋が近くにあると心が落ち着き、集中できるというだけで知らず知らず毎日いてしまうというだけ。

空き時間に本を買うこともあれば、雑誌棚をチェックして季節感やトレンドを目から吸収したり、気になるページをパラパラめくったりするだけでも、画面作業ばかりの流動的な時間に弾みがつきます。

 

言葉遊びとは面白いもので、一度自分の中で「〇〇的」とタグ付けしてみると、次に本屋へ行く動機や意識まで変わります。

例えば上記で書いたような「職場的本屋」、毎日のパンのような「日常茶飯的本屋」、文庫や雑誌をサッと買っていく「旅は道連れ的本屋」……それぞれ、ありがたい存在ですが、自分の中で「ごちそう的本屋」と位置づけている存在が確かにあります。

私が考える「ごちそう的本屋」とは4,000円や5,000円(ヨガやマッサージ1回分くらいの値)を払ってでも訪れたい、会費徴収型の本空間や、交通費やコーヒー代を合わせて2,000円以上もかかる遠方の本空間(必ずしも本屋/書店でないこともあるのでそう呼んでいます)が、それにあたります。

そんな中、時と場合によって「ごちそう」にも「日常茶飯」にもなる存在が蔦屋書店です。特に思い入れが深いのは、代官山と六本木のお店。

2011年のオープンから12年も経過した代官山は、学生の私にとって自習室的存在でした。

1階2号館の椅子の撤去されたスペースを通る度、そこにあった個人席でスターバックスのコーヒーをお供に就活のエントリーシートを書きあげた思い出が懐かしく蘇ります。

一方、2003年に初めてBOOK&CAFEとしてオープンしたというTSUTAYA TOKYO ROPPONGI(現六本木蔦屋書店)は、リニューアル前から私にとって「海外」と出会える場所。そして「自由な働き方」というものを見て学んだ場所でした。

リモートワークが一般的でなかったときから、ここで朝から自由に働く人たちを観察し、将来どんな働き方がしたいか考え始めたきっかけに。

その後、蔦屋書店というインフラのおかげで(間接的にですが)無事に就職。

渋谷区や麻布付近に住んだ経験のある20代は、朝の散歩がてら足を運ぶのが「日常茶飯」になりましたが、物理的にも遠い存在になった今は、イベントの関係者往訪など、限定的なシチュエーションでのみ足を運ぶ特別な存在に。

位置づけは変わっても、経年変化する自分の感覚を確かめに、足を運び続けています。

 

人生経験はまだ30年と少しの私ですが、最後に本屋、および、日常とごちそう、どちらも楽しむコツをお教えします。

例えば、仕事(私の場合書き物)を進めに行きたい、コーヒーを飲みながら一冊とじっくり向き合いたい。ただ身を任せてぼーっとして時間を使い倒したい。誰かと語らいたい。

その日その日の用事を決めてから本屋に行くと、同じ場所でも何度も楽しめて、それだけで何度も足を運ぶ動機に(そんな来店動機があることは本屋さん側にも教えてあげたいものです)。

日々のパン、ごちそうパン。
日常茶飯的な本屋さん、ごちそう的な本屋さん。
どちらも違って、どちらも楽しい。

「日常が楽しい」に越したことはないですが、たとえ特別な体験や高価な食べ物でなくても、日常の中にごちそう感覚で楽しめる拠り所を持っておくと、生活に弾みもつきます。

誰しも日々の気分や体調、仕事の状況などに波があるものですが、皆さんが皆さんにとっての好きなものや場所を起点に、そんな毎日のグラデーションを楽しむことができたらいいなと思います。

Text / Anna Koshizuka

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